これは依存の始まりでしょうか。(鉢屋視点)



最初は気に入らなかった。
そのオドオドした態度とか兵助を簡単に奪っていくその存在が。

私たちは今まで4人でいたのに。雷蔵とハチと兵助と4人でいるのが楽しかったのに。
そう思っていたのが、あいつの顔をみてすべてが吹っ飛んだ。

よく知った顔にそっくりだった。いや、そっくりなんてもんじゃない。最近あまり見ることのないその顔は私と同じ造りをしていた。
学園で知る人はいないだろうその顔を何も知らないそいつがしていたのだ。最初は故郷の奴らが仕組んだんじゃないかとまで疑った。
けれどそうじゃないとわかってからは、そいつが気になって気になって仕方なかった。

まずその眼鏡がいらないと思った。

お前の見た目は悪くないんだから何故隠す!
(自慢じゃないが俺の素顔は結構整っていると思う)

そしてそのオドオドしたような態度と相手の意見に流される、自己主張の無さ!
(本当に自分がオドオドしているようで、相手に良いようにされているようで見ていられない)


我慢の限界だった私はあいつに徹底的に構うようになった。

そうこうしているうちに雷蔵やハチや兵助にいらない誤解をされてしまったが。
三郎、恋してるんだね!なんて笑顔で雷蔵に言われ、兵助とハチからは頑張れよ!と応援された時、思わず飲んでいた茶を吹いて悶絶してしまった。
最初は誤解だと弁解していたこともあるけれど本当の事を言えるわけなく。
やっぱり気になるものは気になるんだから仕方ない、と諦めてしまった。

あいつは、は確かに人見知りの傾向があるようだが、仲良くなってみればなんてことはない。最近じゃ雷蔵やハチにも笑いながら話す姿をよく見る。

そして、自分にも笑って話すようになった。
自分の顔を鏡で見ても気づかなかったが、が笑うと少し幼くて犬のようだと思う。
その証拠に先生や中在家先輩がよくの頭を撫でているのを度々見かけるようになった。


そうして数日がたったある日のことだ。

いつもは雷蔵の姿を借りたりして変装ばかりしてい私は、突然自分の顔を忘れてしまった。
前にも同じ事があって1年は組の乱太郎きり丸しんべヱに協力してもらって、池に落ちることで思い出せたけれど、今回はそんなきっかけがあったわけじゃなく、本当に突然忘れてしまったのでどうしようもなかった。


周りは誰も自分の顔を知らないし、他の奴には雷蔵と間違われる始末。

自分が本当は誰なのか鉢屋三郎なんて存在が本当にいるのか、なんてわけのわからなくなる錯覚まで起こしてすごく不安になってしまった。

その時に丁度通りかかったのが苗字で。

雷蔵かと迷うそぶりも見せずに、三郎、と私を呼んだの顔をみて、
ああ、自分はこの顔だったと思い出せたのだった。

最初のような怯えた様子もなく柔らかな笑顔を向けてくる名前に、確かに性格は全く違うけれどがいるだけで自分(の顔)を思い出せることがとてもとても嬉しくて、何故だかとても安心した。




これは依存の始まりでしょうか。



誰も知らない自分と同じ。特別だと、意識しないわけがない。



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