その後の暴君と先輩は



なんとか終わったドッジボールの後。

体育委員の後輩達を抱えて保健室に向かう長次と八左ヱ門を見送った俺は、不貞腐れているらしい小平太を見てため息をついた。

今日は生物委員全員でそれぞれ逃げ出した毒虫を捕まえていた。
一応委員長という肩書を持つ俺は一年生だけじゃ危ないと一緒に探して周り、同じ生物委員の孫兵は隙をついて逃げ出した最愛のジュンコを追って長屋に。
八左ヱ門は少し遠くまで見てきますと言って俺達とは反対方向に向かって行った。

そうして数刻後、ようやく全部捕まえたかと生物委員集合の合図を掛けたのに、八左ヱ門だけが来なかった。

そんな遠くに行ったのか?と不思議に思い、とりあえず解散させて探しに行ったらいつもとは様子の違う小平太と必死に逃げ惑う八左ヱ門を発見、急いで走ったのだが。
どうやら今日は小平太の機嫌があまり良くないらしい。


いつも委員会と称しては長距離コースを何度も往復したり塹壕を掘ったりして、後輩達を疲れさせるのはよく目にするが、気を失うまでやるなんて明らかにおかしい。
しかもその後の(小平太曰く)ドッジボール(という名のストレス発散)も結構な時間やったのに起きる気配すらなかった。

あまりの小平太の機嫌の悪さに見兼ねたのだろう、長次がなんとか押さえてくれていたようだが、まさか八左ヱ門が被害に遭うとは…


未だに鬱憤が晴れていないのか地面に座り込んでいるその背中は、怒っているというよりも拗ねている様にしか見えない。


(さて、どうしたもんかな)

下手に刺激しない方がいいかと思いつつ、座り込んでいる小平太に並ぶ様にして座る。
そしてチラリと横顔を覗いてみれば、頬を膨らませているその表情は予想通り拗ねていた。


「どうした小平太」

肩を叩こうとしたら手を掴まれそのまま小平太は此方を振り向いた。


「わたしは何だ」

「小平太?」


「わたしは名前の何だ。竹谷ばっかり庇って構って心配して、名前は何だ!」


我慢ならない!と吠える小平太は、どうやらあのドッジボールで俺が八左ヱ門ばかりに構っていたのが気に食わなかったのだろう。
いや、あの殺人レシーブを集中的に食らっているのを見れば心配せずにはいられないのが当たり前なんだが。

もしも、それが理由ならば八左ヱ門には申し訳ないことをしたと思う。


(今度改めて謝っとこう。ついでに饅頭でもあげようかな)
俺が違う方へ意識を持っていったのが本能でわかったのか小平太が「名前!」と俺の名前を呼んだ。

「大事な後輩を放っておけるわけないだろう、同じ生物委員だしな。小平太だって滝夜叉丸達は大切な後輩だろう?」

「確かに滝夜叉丸達は大切だ!…けど、それでも!私より他を取るな!」


わたしが一番じゃなきゃ嫌だ!


ソレは小平太の口癖だった。
小平太は元々独占欲が強い方で、そんな小平太と小さい頃からずっと一緒だった俺は忍術学園でも同じ組となり同じ部屋となり、変わらずに一緒にいたせいか、その独占欲が半端なく強くなっている気がする。
まぁ、それだけ好かれているのだと前向きに考えよう。


「聞いているのか!!」

「ああ、小平太は俺の大事な幼馴染みだもんな」


そう言えば、少し間があいてパッと笑顔になる。
そうなんだぞ!と言いながら嬉しそうにしている小平太は機嫌を直したらしい。

「もう、帰るぞ」と立ち上がれば、俺の手をずっと握っていた小平太も同じく立ち上がる。
ニコニコと笑っている小平太はそのまま俺の手を離す気が無いようなので、そのままにしておいた。





その距離は未だ変わらない



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