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私の気持ち、というのは微かに思いを募らせていた古市さんへの恋愛感情のことをいうのだろうか、
でも待って、どうして、会えないってなんで、古市さんへの気持ちをどうして知られてるの。
すべての感情がひたすら頭の中でぐるぐると回っていて思考が追いつかない。
ようやく絞り出した自分の声は微かに震えていて、こんな声も出せるのかとどこか冷静に現状を分析している自分もいた。
「気持ちって、どうして」
「はぁ…、20超えたぐらいのガキの考えることなんかなんとなくで分かる。それに、お前は顔に出やすいんだよ」

じゃあずっと知られていたんだろうか、私の表情なんて、自分じゃ見えないのだから防ぎようがないじゃないか。
私の気持ちに答えられないと言われたことも聞きたいが、それよりも、会うつもりはない、という言葉に理由が欲しかった。
「どうしてですか、会えないってなんで…お仕事お忙しいなら落ち着くまで連絡しないようにします。それでも会えないんですか…?」
はぁ…、と再びため息をついた古市さんが怖くて、彼を見ることができず、私の視線は相変わらずテーブルを見つめている。
「それでも、だ。」
「理由を教えてください、お願いします」
そう懇願した私の声は震えていた。それでもなお古市さんは仕事だ、としか答えなかった。溢れてくる涙を零さないように必死に目に留まらせる。

「…路地裏によく行く仕事ってなんですか、古市さんは何のお仕事されてるんですか」
「あ?路地裏?」
「この前、天鵞絨駅近くの大通りから路地裏に、古市さんらしき人と金髪の人、黒髪の人と一緒に消えていくのを見ました。どちらも遠くから見ると厳つめの人でした。初めて会った時助けてくださったのも、路地裏でしたよね」
勢いに任せて顔をあげてしまったが、やっぱり古市さんを見るのは怖い。
「チッ…、見てたのか」
今まで聞くことのなかった舌打ちに体がこわばる。やはり聞いちゃいけないことだったよね、でも一方的に会うつもりもないなんて言われても納得できないししたくないよ。そう思ってしまうのはやっぱり私がまだまだ子供だからかもしれない。

「苗字、俺の職業を聞いたら会うつもりがないことに納得しろ」
「どうしてですか、そんなの、私の気持ちは?古市さんのこと、初めて会ったときから好きなんです、柔らかく笑ったあなたの表情が何よりも好きなんです」
「いいから納得してくれ、俺の職業はヤクザだ、もう何年も前から道から外れちまってる。それに、悪いがお前の気持ちには答えられない」
返ってきた言葉は、私の想像以上だった。
「やく、ざ…ヤクザってあの、たまにニュースにもなる…?それに、付き合ってる人がいるってことですか?」
「そうだ、そのヤクザだ。まっとうに生きてねぇんだ。……付き合ってねぇがずっと好きな女がいる」
だからこんな男と関わるのはやめておけ、苗字にも危険が及ぶ可能性がある。同い年ぐらいのふさわしい男なんかいっぱいいるだろ、

そう言われてしまっては、古市さんの職業がヤクザなことも古市さんへの気持ちについても、私はこれ以上なにも言うことができなかった



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