16 [ 17/17 ]

古市さんと食事をしてしばらく経った頃、季節は春から夏に変わろうとしていた。
あれから今でも私は未練がましく古市さんのことを想っている。友人に古市さんの職業など隠すべきところは伏せて相談したが、誰に言っても忘れるべきとかもっといい人がいる、としか言われなかった。

あんなにはっきりと好きな人がいると言われてもなお未練がましく想い続けている私も悪いけれど、自分と関わったら危険が及ぶから近づくなと言った古市さんも悪いのだ、と思うことで自分を正当化してしまう。
だって危険だから、ということはほんの少しでも私のことを気にかけてくれているからだよね。そうじゃなかったら他人が誰と関わってても放っておくよね。
良い方に良い方に考えてしまうのはダメだと分かっていても、古市さんの優しさを感じてしまうと忘れるなんてできなかった。

それでも月日は巡り、春組公演が終了したMANKAIカンパニーでは新生夏組の旗揚公演が行われようとしていた。
そのことをMANKAIカンパニーの公式SNSで知った私は、チケット販売開始日にクリック戦争に勝ち抜き、今回も初日と千秋楽のチケット確保に成功したのだった。
春組公演が成功したことで、以前とは異なりチケット販売は電話やウェブ上で受け付けているようだ。本当は今度こそ全日通いたかったが、さすがに月のアルバイト代だけではほかの出費もあってか苦しかったため、以前のように初日と千秋楽のチケットに限定した。

ちなみにあれから茅ヶ崎さんの姿はストリートACTでたまに見ることがある。話しかける勇気なんてないけれど、イケメンなので存在していただいているだけで有難い、なんて一緒に観ていた友達とふざけあいながら話していたことは記憶に新しい。


そんな友人が、ある日突然MANKAIカンパニーの今度の公演に一緒に観に行かないかと声をかけてきた。聞けば彼女の大好きな皇天馬が今度の夏組の舞台に出るそうだ。
そういえば彼女は皇天馬の大ファンだということを思い出す。
「それって何日の公演?私実は一人で初日と千秋楽観に行く予定だったんだよね」
「え!そうなの?名前って舞台とか好きだっけ?」
「いや、興味なかったんだけど、この前ストリートACTしてたすっごい顔のいい人覚えてる?」
「あぁ、あんたがテンション上げてたやつね。顔がよかったから覚えてる」
「前にその人、茅ヶ崎さんっていうんだけど、フライヤー配ってたのね。で、あまりにイケメンだったからチケット勧められるがままに買っちゃってさ。結果舞台すっごく面白かったからよかったんだけど」
茅ヶ崎さんに出会った経緯を話すと少し呆れられたのが解せない。
「名前ってそのうちイケメンに騙されそうよね。それで今回も観に行くのね、残念2枚買ったけど公演初日なのよね」
「そういうこと。あー、ごめんね?」
「いいよー、フォロワーさんで誰か行ける人聞いてみる。あ、でもさ、もし今回の天馬くんの舞台が面白かったら今度の公演には私も行きたいから一緒に行きたいな」
「もちろんだよ!MANKAIカンパニーの舞台きっと面白いから次の舞台一緒に観に行こうよ」
次の公演を観に行く約束をして、今回の夏組公演は同じ会場にいつつも席は別々ということになった。



[] [→]
top