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時刻は18時40分
そう、今日は古市さんとご飯の約束をした日だ。待ち合わせは19時だったけど、念のため早く到着して古市さんを待つ。天鵞絨駅前で待っているがさすがに古市さんらしき人はまだいない。
しばらくその場で待っていると苗字、と声をかけられた。顔をあげると全身ほぼ黒という服装に金髪が様になっている古市さんが立っている。
「待たせたか?」
「全然です、私もさっき着いたところなので」
「そうか、早いな」
「遅れちゃだめだと思って早く着いちゃいました」

全身黒っぽくてもかっこいいなぁ、なんて思いながら会話を進める。今日はどこに行くんですか?と聞こうとした時、古市さんが歩き出したので慌ててついて行く。
「行くぞ、少し路地から外れるが雰囲気のいいところだ」
「古市さんのオススメなら間違いなさそうですね」
そう言うと彼はフッと笑う。
あれ、古市さんの雰囲気ってこんな感じだったっけ、もう少し柔らかかった気がした。それとも、久々に会うからそう感じるだけなのだろうか。

「あっ、あの…」
「着いたぞ」
古市さんに何かあったのかを聞こうとしたが、それは店に到着したことで叶わなかった。
路地裏のこじんまりしたところだが、駅からすぐで人通りも少なく隠れ家的外観のお店だ。
「すごい、こんなところあったんですね」
「店内もうるさくなくて雰囲気はいい」
すごい、さすが古市さんおすすめのお店だけある。スタスタと店内に入っていく古市さんの背を追う。あまりキョロキョロ見回すのは失礼だと思いつつも、チラチラと見てしまうのは、あまりこういう場に来る機会がないため目を瞑ってほしいところだ。

案内された席は個室だった。完全な個室というわけではなく、薄いカーテンのようなもので仕切られているだけであるが、それでも周囲のお客さんを気にすることなくご飯を食べられるのはとてもありがたかった。

どうやらこのお店は魚介をウリにしているらしい。
「ここは刺身がうまい」
メニューを見ていると古市さんがそう言うので、古市さんは生ビール、私はオレンジ系のカクテル、そして刺身を何点かと卵焼きや串カツの盛り合わせを注文した。

注文した品が届くまで、私たちはたわいもない話をした。ほぼ私が話を振っていて、それに古市さんが反応してくれるだけだったが。
春組公演のロミオとジュリアスの感想、どこがよかったか、最近大学で起きたこと、ゼミ課題で行き詰まっていること、アルバイト先の変わったお客さんの話。
どの話にも古市さんは嫌な顔一つせず、相槌をうちつつ、時々意見を述べながら聞いてくれていた。

「すいません、いっぱい話してしまって」
「いや、苗字の話は聞いていて場面が頭に描きやすくおもしろい」
「そうですかね?…でも、ありがとうございます」

カーテンが開けられ、お待たせしましたの声とともに美味しそうな料理が運ばれてきた。



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