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春組の公演から数週間、あれから古市さんを天鵞絨町で見かけることはなかった。かといって、いくら会いたくてもご飯のお誘いLIMEをする勇気も私にはなく、ただ時間だけが過ぎていった。


そんな時、天鵞絨駅近くの大通りを歩いていると、反対車線に一台の黒いセダン車が停車した。高そうな車だな、と感じてチラリと見ると中から出てきたのは古市さんによく似た人だった。
古市さん…だよね?あれ、こんなことこの前もあったような気がする。私は古市さんに限りなくよく似ていたのでいっそのこと本人だと思うことにした。これで見間違いだったら少し申し訳ないし恥ずかしい。でもほんとにすごく似ている。
スーツ姿なんて新鮮だ、お仕事中かなぁ。
思わずその場に立ち止まって見ていると古市さんはこちらに気づくことなく、なんだか厳つい格好をした黒髪の人や金髪の人と路地裏へ消えていった。

そういえば以前助けてもらった時も路地裏だったよね、何のお仕事してる人なんだろう…一緒にいた人もなんだか厳つかったし、路地裏によく出現するお仕事ってどんなお仕事なのかな。気になるけど、前にお仕事の話してほしくなさそうだったから聞けないなぁ。
でも、どんな仕事に就いていても危ないことに関わっていなければいい。彼が安全に過ごせているなら私は彼がどんな仕事に就いていても構わない。

今日の夜LIMEしても嫌がられたりしないかなぁ、久しぶりにお話したいし連絡してみようかな。
そう決めたら朝より勇気が出て、LIMEを送ることを躊躇していたのが嘘のように、家に帰ったら古市さんとのトークルームを開け今度の金曜日に夜ご飯でもご一緒にどうですか?お返事待ってます。という趣旨のLIMEを送っていた。

結局その日は返事が来ず、帰ってきたのは翌日の夜だった。返事が遅くなったことに対する謝罪と、金曜日は予定があるから土曜日はどうか、という内容だ。
当日返ってこないのは少し寂しかったが、古市さんは社会人でお仕事が忙しい時もあるだろうしそんなに気にしていなかったためわざわざ返信が遅くなったことを謝ってくれて優しい人だな、と思った。私は返してもらえたことが嬉しいので気になさらないでください、とフォローする。土曜日はバイトがあるが夕方までなので、夜ならご飯も一緒に食べれるはずだ。

その後少しやり取りをして、今度の土曜の19時に天鵞絨駅に集合することになった。お店はどうするのかと思ったが、どうやら古市さんのオススメのお店に連れて行ってもらえるらしい。好みを聞いてお店探さないと、と思っていたのでオススメのお店に連れて行ってもらえるのはすごく嬉しい。
嬉しいです、楽しみにしてますね!と彼に伝え、そのままLIMEは終了した。



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