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あれから家に帰っても、公演初日から数日たっても、私はあの時の彼らの姿を忘れることができなかった。一人で静かになったときどうしても、あの時の何が起きるのか分からずワクワクした高揚感を忘れることができなかった。

これなら全公演通ったらよかったかなぁ、でもそうすると金銭的に厳しいものがある…。
まさか観劇があんなに面白いものだとは思わなかった。今までほかの劇を観に行かなかったことを後悔したぐらいだ。

そして今日、待ちに待った春組公演ロミオとジュリアス千秋楽、キャストの名前もこの前はいまいち覚えきれていなかったが今日はバッチリである。
この前は可愛らしめの服だったため、今日は大人っぽく仕上げようと思い巻いた髪をアップにし服も落ち着いた色味の服を選ぶ。
到着時間は初日と同じぐらいの時間だった。会場に入って気づいたが、初日は少しまばらだった席も千秋楽ということもあるからか、既に満席だった。

席に座りながら今回のパンフレットを見て時間を潰していると、開演の合図が劇場全体に響く。
いよいよだ、ティボルト役の茅ヶ崎さんを観ることができるのはこれが最後。あの時古市さんに会えず落ち込んでいたが茅ヶ崎さんに出会えて、MANKAIカンパニーに出会えてこんなにいい演劇を知れて本当によかった。
私の世界を広げてくれた茅ヶ崎さんには感謝しかない。

劇も中盤の頃、茅ヶ崎さんの様子がなにかおかしかった。何がと言われたらはっきりとは言えない。でもなんだろう、初日しか見ていなかったけれど違和感を感じる。
……あれ、ティボルトが倒れない?
初日を見たとき倒れ方がきれいだったためこのシーンはよく覚えている。
『やめろ、ティボルト!もう戦いは終わったんだ!』
あれ、こんなセリフあったっけ?
『----死ね、ロミオ!』戦いが続いている。茅ヶ崎さん、なにもなかったんだろうか。
『ごめんごめん、次は僕がジュリアスのために仮死薬の材料を取りに行くよ』
『あんなことがそうそう何個もあってたまるか』

……終わった。幕が下りた瞬間思わず立ち上がって拍手をしていた。
すごい、みんなかっこよかった…二度目だどいうのにいつのまにか視界が滲んできて、どうして泣いてるのか自分でも分からないけれど役者のみんなのことを思い浮かべたら涙が溢れて止まらなかった。同年代や年下の子もいるだろうに、何かに夢中になる姿はとてもかっこよくて、そのまっすぐな姿に憧れた。
公演後のアンケートに今の感情の全てを込めて、少し遅くなってしまったが会場を出る。

その時だった。サラっとした見覚えのある金髪、黒っぽい服装の人が関係者入口の方へ向かっていくのが見えた。
「古市さん…?」
私は無意識に走って後を追いかけていた。メガネをかけていたかどうかまでは見えなかったけれど、古市さんにとても似ていて彼本人であるという謎の自信すらあった。
角を曲がったところで追いついたと思ったけれど、扉の前にいたのは古市さんではなく、可愛らしい見た目の女の人だった。
パッチリした二重に少し長めの茶髪、顔立ちは整っていて、綺麗と可愛いの比率では可愛いよりの人だった。
誰だろう、と戸惑っていると、どうされました?と声をかけられる。
「いえ、知り合いに似た人がいたと思ったんですが、気のせいだったみたいです。失礼しました!」
勢いよく頭を下げて、慌てて会場を後にする。やっぱり古市さんじゃなかったのかなぁ

その日からしばらく、私が街で古市さんを見かけることはなかった。



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