献身バレンタイン(火黄)
「火神っち、あの、これ、俺の気持ちっス…!」
恥じらいながら黄瀬が差し出したものは、山と積まれた紙袋3つ分のチョコレートだった。
「うちの火神くんを残飯処理機扱いするのはやめてもらえませんか」
「だってこんなん1人で処理しきれないっスよ!帝光の頃は紫っちがいたから良かったけど」
黒子の半眼にもめげることなく、黄瀬は紙袋を押し付けてくる。
「火神っちが断ったらこれを着払いで秋田に送り付けるっス。氷室さんにジーザスさせたくなければ大人しく受け取ってください…」
「どんな脅迫だよ。送料払えよ」
よく分からないが黄瀬も追い詰められているのだろう。別にチョコレートを引き取るくらい、なんの問題もないどころか火神家の食料事情が潤うくらいだ。
「いらねぇっつーならありがたくもらうけど…いいのかよ。なんかこれ全部高そうだけど」
「ああ、俺は手作りは受け取らないので全部市販品だよ」
「黄瀬くん、ちょっと潔癖なとこありますもんね」
「他人の手作りとか無理っス」
なんにせよ贅沢な悩みだ。火神は3つの紙袋を引き取ろうとしたが、黄瀬は2つだけを手渡してくる。さすがに1つは持ち帰るのかと思いきや、そうではないらしい。
「重いから運ぶの手伝うっス」
気遣いとその綺麗な笑顔に、火神はチョコレートを貢ぎたくなる女の子の気持ちを理解したのだった。


黒子と別れて、チョコレートの山と共に帰宅する。リビングに通すや否や黄瀬はクンクンと辺りを見回した。
「なんか既にチョコ臭が蔓延してるっス」
「あー、昨日チョコ湯煎したからだな」
「作ったんスか!なんで?」
「黒子が食べたいっていうから」
「相棒、好待遇!」
ケラケラ笑って、黄瀬は甘えるように小首を傾げる。
「作ったチョコはもう残ってないの?」
「…まだちょっとだけあったような…」
「食べる!」
こんな、何日分かも分からない量のチョコレートをもらったのだ。自作チョコレートの一つや二つ分け与えるのはやぶさかでない。
「ほらよ」
冷蔵庫にしまっていた分を差し出せば、黄瀬はまた吹き出した。
「ちょっ…ハート型なんスけど!」
「だってバレンタインだろ?」
「アンタどんだけ律儀なんスか!」
ヒーヒー笑った黄瀬はそのままチョコレートに手を出す、ことはなく、代わりにあーんと口を開ける。
「……」
親鳥の気持ちでチョコレートを運んでやれば、黄瀬はすぐに咀嚼してぱあっと顔を輝かせる。
「美味しい!」
もっともっとーとねだられるままに2つ目を手にしてふと、思い出す。
『他人の手作りとか無理っス』
早くと急かす黄瀬に潔癖なところなど見当たらない。
ーーーまぁいいか。
火神は深く考えることなく、綺麗に整えられたハートを、黄瀬の口に放り込んだ。


fin 2019/2/14


prev next

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -