魔王様と新婚旅行31



 ナルシア様は俺が何も把握していないことを理解すると、丁寧に契約の意味を教えてくれた。

「ユーリ、あなたの行なったものは番の儀式です。ヨメとして契約し、神の試練を乗り越え女神に認められた者が神王の恩恵を受ける番同士となるのです。番となればあなたは魔族としてジークハルドと同じ寿命を生きることになるでしょう。食生活はおろか、姿かたちが変わる可能性だってあります。何より魔王の番として人間に憎まれ、勇者に命を狙われる危険も生まれるのです。……人間と魔族では価値観が大きく違います。だから信頼関係が成り立った上で行なわれるこの契約で人間と魔族が儀式を成功させるのはとても難しく、例えヨメとしての契約が成立しても番になれず、死後王の罰を受けることになるでしょう。ヨメとしての制約や代償もとても大きい。ジークハルド、あなたはユーリにこの話をしていなかったのですね」

 ナルシア様が責めるようにジークを睨みつける。ジークは俯いたまま黙っている。俺はというと、想像以上に重かったこの契約に驚く――ことはなかった。

「いや、そうは言ってもなっちまったもんは仕方ねえじゃん。流石に生きた人間の肉しか食えなくなりますとかだったら考えるけどジークを見る限り雑食っぽいし、見た目は特にこだわってねえからどうでもいいし、この世界の人間に知り合いなんていねえから憎まれてもソウデスカって感じだし、そもそも西の国にいる限りは安全っぽいし。あと死んだ後のことまで気にするなんて面倒臭え」
「いいえ、あなたは分かっていません。私が話したのはあくまで予測と可能性。人間が魔族と契約して番になれた例は過去一度もありません。つまり、実質的にあなたたちが番になることは不可能な契約なのです」

 ナルシア様は眉を寄せて俺を見る。ジークに騙された形で契約を交わしてしまったことに対して懸念を抱いているのだろう。だが、既に儀式は終わったことだ。今更何を言っても仕方が無い。
 確かに黙っていたジークに対して何も思わないこともないが、俺が説明を面倒臭がるので省いたのだろう。いや、しかしちょっと省きすぎだ。後で説教しよう。
 だが最初は死のうと思って投げ出した命なんだ。そんな俺に惚れて自分もデメリットを背負う契約を提案したジークの気持ちに嘘はない。俺の中では、それで充分なんだよ。
 俺は左手を握り締めたままのナルシア様に笑みを向けた。

「最初に魔族と、しかも魔王と番になる人間か。上等だ、面白え。誰もなったことがねえってんなら俺がなってやるよ。生憎と俺に不可能なんて文字はねえからな」
「ユーリ……格好いい……」
「いや、お前は反省してろ。後で説教だからな」

 口を両手で覆いながら頬を高潮させて俺を見つめてくるジークに半眼を返していると、ナルシア様が苦笑しながら俺の左手を離した。

「あなたはただの人間であるはずなのに肝が据わっていますね。その意思の強さは私をも惹きつける魅力があります」
「そうでしょう、ユーリはセートカイチョーというものらしいです」
「なんですかそれは」
「私もよく知りませんが、未来ある若人を束ねる選ばれた者だとロジが言ってました」
「ふむ、セートカイチョー。王や領主とはまた違うカリスマ性ですか」

 ファンタジーな面した奴らが生徒会長って単語を連呼するのはとてもむず痒いな。生徒会長と呟くナルシア様を何とも言えない気持ちで見つめていると、壁を叩く音が聞こえてそちらの方を振り返った。
 見れば、おっぱいさんが話を中断したことに申し訳なさそうな顔をしながらナルシア様を心配そうに見つめている。

「ナルシア様、これ以上の話はお身体に障ります。その姿もすぐに魔力が尽きるでしょう」
「え、そうなのか。なんか疲れさせてしまったみたいで申し訳ないな」

 おっぱいさんの言葉に俺は驚いてナルシア様を見た。そう言えば療養中でここにいるんだったな。



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(C)siwasu 2012.03.21


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