魔王様と新婚旅行30 どうやらナルシア様は俺に興味を持ったようだ。身体ごと輝く虹色の目をこちらに向けてくる。 「その髪や目は生まれつきのものですか」 「ああ、なんかこっちでは黒って珍しいみたいだけど」 「黒は神王のものですからね。濡羽色ともなると相当な魔力を秘めています。……触れても?」 「どうぞ」 一応ジークのことも視線で確認したが、問題ないようなので頭をナルシア様の方に近付ける。ナルシア様は毛束を一つ指で取ると、優しく撫でながらどこか納得したように頷いた。 「異界の者は過去何度か見てきましたが、ここまで美しい色を見るのは初めてです。だからユーリはジークハルドを恐れなかったのですね」 「はあ」 自分の髪に魔力が秘められているなんて初めて知ったぞ。俺は適当な相槌を打ちながらジークを見る。どうやらジークも知らなかったらしくへえ〜みたいな、間抜け面を見せていた。おい、魔王。 髪から指を離されて、俺は触れられたところに手を置く。心なしかその部分だけつやつやになったような気がする。おそらく気のせいだろうけど。 「ユーリ、今度は指を見せてください。ああ、いえ、契約の印を」 質問や接触などが続いてくると、まるで診察を受けているような気分になる。だがジークを見ても従うように促されるだけで、仕方なく契約の印が刻まれている左手をナルシア様に差し出した。両手でそれを取ったナルシア様の左手薬指には……あれ、契約の印がない。 「あなたはまだジークハルドを恐れていますか」 「恐れ……うーん、怖いと思ったことはねえけど」 薬指の模様を撫でられてくすぐったさに身を捩りながら素直に思ったことを口にすると、ナルシア様はジークハルドを見て口を開いた。 「ジークハルド、戻っても大丈夫ですよ。ここなら結界を張る必要はありません」 「ありがとうございます」 ジークはナルシア様の言葉で金髪優男からいつもの姿に戻ると、深々と頭を下げた。さっきから大人しい姿を見るに、シェルロの王であるナルシア様は魔王より権力が強いようだ。普通なら魔王がこの世の覇者みたいなイメージがあるのだが、この世界では魔王が四人もいるし少し俺の知っている魔王像と勝手が違うらしい。あとジークの性格上って部分もありそうだ。 「ユーリはジークハルドがどう見えますか?」 「どうって……髪が赤くて、目は金色で、角があって、羽があって、見た目は魔王っぽいけど顔が情けないからイマイチ締まりがない」 「ひどい……」 「泣くなよ」 見たままを答えただけなのだから仕方ない。俺の答えに、ナルシアは少し考えるような素振りを見せると小首をかしげた。 「番の契約は、本来お互いの心が通じ合った時にその色が同時に変わるのです。神王の黒から海洋王の青、冥王の紫、焔王の赤、森羅王の緑、天王の金、そして女神の銀。全ての王に認められて初めて神王の番である女神に認められます」 「ん? んん???」 ナルシア様の説明に今度は俺が首をかしげた。そんな話は初耳だ。あの儀式でヨメとしての契約は成立したんじゃないのか。つか番ってなんだ。ジークの方に顔を向けるが、何故かこちらを見ようとしない。 「おい」 「……」 「…………りこん」 「そっ、それだけは許してくれ……!」 慌てたジークがこちらを見て泣きそうな顔を見せる。なるほど、俺はヨメとしての正しい説明を受けていなかったらしい。ナルシア様は俺たちを見て呆れたようにため息をつく。 「信頼関係が成り立っていない状態でよく神王に認められましたね。過去に例があるとはいえ、本来の手順を踏まず契約すれば激痛が走るはずですが」 「いや、すっげえ痛かったよ。死ぬかと思った」 あ、また微妙な顔をされた。せっかく整った顔が台無しだな。 >> index (C)siwasu 2012.03.21 |