魔王様と新婚旅行27



「行き止まりだけど」
「サーヴァは過保護なのだ、幾重にも結界の層を張っておる。ナルシアの元に着くのはまだ時間がかかるだろう」
「いやもうこれ監禁レベルじゃねえか」

 ため息をつきながら半眼で壁を見つめるが、考えてみればバラスに引きこもってる俺も似たようなものか。
 そんな話をしていると、木の壁が動き出してその奥からまた新しい壁が出てくる。今度は葉で覆ったような壁だが見た目に反してきっと頑丈な壁なのだろう。
 これが何度も続くのか。うんざりした気分を覚えながら俺は気になったことを口にした。

「そういえばお前の名前ちゃんと聞くの初めてだな。ジークハルド・バーンハート・フィリ・エイドリアンス・ツェベリロンドミニア・イールスンだったか」
「うむ。面倒だと言っておったが覚えられるではないか」
「長い名前言うのが面倒ってだけで覚えるのはそこまで面倒じゃねえよ。この場合俺のフルネームはどうなるんだ?」
「ユーリ・トゥ・ド・イールスンだな。初めの頃、書簡にサインもしただろう」
「ユイスの用意した文字だか記号だかよく分からないもん見ながら書いてただけだからなあ……そうか、あれ俺の名前だったのか」

 こちらに来て間もない頃書かされた文字を思い出せば、確かにそう書いたような気がする。今思えば何も読めないもんによくサインしてたな俺。
 おそらくトゥ・ドが藤堂の部分なのだろう。もはや別の名前だが呼ばれて分かれば名前なんてどうでもいいのでそのままにしておこう。今更訂正してもユイスにガミガミ言われそうだし。
 そんな雑談を続けていると、ようやく7回目の壁に到達した。いつ終わるんだこれ。
 聞いてみると、結界の数は11だが徐々に解除の手順が複雑になってくる上、手順を一つ間違えたり攻撃を加えれば入り口に戻されるのだという。そして新たな術式が組み込まれた結界をまた一から順に解いていかなければならない。おまけにわざわざ耐物理攻撃と耐魔法攻撃をランダムに組み合わせてあるわ複雑なトラップが混ざっているわ聞けば聞くほどサーヴァの性格の悪さが結界に出ていることがよく分かる。こういったところにも人間性って表れるんだな。

「やっと9回目……もう2時間ぐらい経ってるだろ」
「この術式の間は時間の概念が存在しておらぬ。外ではまだ私たちが入った時間のままだ」
「うえ」

 こんなことなら馬車に置いてきたゲーム機を持ってくるんだった。でも一応急いで解除してくれているらしいおっぱいさんの手前、文句は言い辛い。それと丸出しのおっぱいも見慣れてくるとありがたみが薄れる。やっぱりチラリズムが一番だよなあ、なんて揺れる肉の塊を無感情で見つめていると、10回目の結界を解き終わったようでおっぱいさんがジークを呼んだ。そしてジークが壁の窪みに指を当てると、最後の壁はあっさりと崩れていく。

「最初からお前がそうやってれば良かったんじゃねえの」
「最後だけは魔力での識別によって難易度が変わるようだな」
「うーん、顔パスみてえなもんか?」

 尋ねれば魔力に流れる性質がなんちゃらでどうのこうの言ってたが知らない言葉が連続して出てきたせいかよく分からん。でも聞きなおすのも面倒だったので、分かったふりをして誤魔化した。
 最後の壁の向こうには扉がある。ここまで苦労して入ったのに性格悪い奴だったら例えもふもふでも嫌だなあ。そんなことを思いながら扉を開けて「お待たせしました」と頭を下げるおっぱいさんの横を通り過ぎてジークの後ろに続くと、中は草原だった。
 あれ?俺たちコテージの中に入ったよな?辺りを見回して不思議に思う俺を手招きして、ジークは横に並ぶように言う。

「ユーリ、前を見てみよ」

 ジークの言葉で俺は正面に目を向ける。景色と同化していて気付かなかったが、大きな布が円を描くように空から降りている。そしてその布の向こうからは何かがいる気配を感じた。おそらくそれがサーヴァのヨメ、ナルシア様ってのだろう。

「ナルシア様、息災でいらっしゃいますか」

 ジークが布の向こうに声をかける。こいつが敬語を使うなんて珍しい、と思う間もなく透き通るような声が辺りを響かせた。



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(C)siwasu 2012.03.21


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