魔王様と新婚旅行26



「ユーリも十分優しいではないか。ウノチトスの女よ、我がヨメの温情に感謝せよ」

 どうやら今回はこれで収めてくれることになったらしい。ホッと息をつくと、おっぱいさんたちも慌てて俺に頭を下げた。何か言いたそうな目を向けてくるが視線を逸らして無視していると、切り替えたのか前を向いて速度を上げる。ジークも気付けば金髪優男に戻っていた。元の姿に戻るのは簡単だが、その際魔王としての魔力を抑えるため結界を張るのでそれが負担になるって昨日言ってたっけか。少し疲れたような顔をしている。

「案内します。御者よ、結界を張りながらついてこい」

 もう大丈夫かな、と俺は窓から顔を出して御者の方を見る。赤い布はもうない。代わりに薄い膜のようなものが馬車を包んだ。後方を見れば、荷物を載せた方の馬車も薄紫色に包まれている。ジークが結界を張ってる時は見た目が何も変わらないので実感が湧かなかったが、これが結界か。すげー、ファンタジーっぽい。ちょっとワクワクする。
 おっぱいさんたちは先頭まで移動すると、そのまま俺たちを案内してくれた。川を離れ、丘に向かうと森の手前で停止する。

「一度ここで全体に結界を張るので動かないでください」

 おっぱいさんはそう言って俺たちの周りを一周すると、今度はゆっくり森の中に入った。
 しかしそこには道らしい道はない。おっぱいさんたちは通れそうだが幅のある馬車は無理だろ。俺はそう思っていたのだが、何故か問題なく奥へと進んでいく。
 不思議に思って窓から上半身を出して前方を覗いてみれば、元々獣道だったところが馬車一台分通れる程度の幅に広がっていた。木とか草が、まるで道を作るように動いているのだ。
 なんかこういうの、ゲームか漫画で見たことがあるぞ。実際みると圧巻だ。
 上の方では枝がアーチ状になってトンネルのような形を次々と作っていく。自然が生き物のように動くのってなんか神秘的だな。少し感動する。
 俺は口をぽかんと開けた間抜け面でずっと作られていく道や天井を見つめていたのだが、30分ほどすると到着したのが馬が止まった。降りてもいいと言われたので早速外に出ると、前方には子供が野球でも出来そうな空き地が広がっている。うむ、土管を置きたい。

「何もねえけど」
「結界が張られているのだ。少し待て」

 辺りを見回しているとそう言われたので、おっぱいさんたちに視線を向けると既に何やら始めていた。空き地を覆うように走り、粉のようなものを振りまいている。そして振り終わると、粉は煙に変化した。しかもピンク色。
 魔法だ、ファンタジーだ、俺は異世界にいるのだ。もくもくと空き地を覆うピンクに内心テンションを上げていると、煙の中から徐々に形が見え始める。消えていくピンク色の代わりに現れたのは。

「おお、コテージだ」

 素朴だが高級感のある木の家が建っていた。中央から手足のように伸びた十字型のコテージは空き地を埋めるほどの広さがある。

「どうぞ、ジークハルド様」

 おっぱいさんに案内されてジークはコテージの入り口に向かう。呼ばれたのはジークだけだったので俺は突っ立って様子を見ていたのだが、小さいおっぱいさんに「何をしている、お前も行け」と言われたので後ろをついていった。おっぱいさんたちはどうやら俺に対して友好的ではないようだ。めちゃくちゃ睨まれている。
 アネリとシャーロッテは別のおっぱいさんと馬車の前で何か話しているので、どうやら許されているのは俺たちだけのようだ。荷物や商品を積んだ馬車からのっそりヴォルフラムが出てきたのが視界に入って城で見て以来だなとぼんやり思い出す。
 ジークと俺は入り口でまた粉を振りかけられて、中へと足を踏み入れた。だが扉を開けても正面にあるのは木の壁のみで、どうしたものかとジークを見上げる。



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(C)siwasu 2012.03.21


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