魔王様と新婚旅行25



 そんなことを考えながら川を眺めていると、突然馬車がよろけるように傾く。思わず窓に頭をぶつけそうになったが、咄嗟にジークが支えてくれた。傾いたらしい馬車はすぐに戻ると、また走り出す。俺は腕の中で目を丸くさせながら川とは反対の窓を見つめた。

「な、なんだ?」

 キュイーンと馬のいななきが聞こえてくるが何かあったのだろうか。ジークとアネリ、それにシャーロッテは特に驚いた様子を見せていないので緊急事態ではなさそうだが。
 ジークが状況を飲み込めない俺を反対側の窓側に座らせてくれたのでこっそり覗いてみる。馬が驚いたであろう原因は、馬車と並行して走る馬に乗った女……じゃない、馬と合体した女のようだ。ケンタウロスの女バージョンみたいなそいつらは、三人(いや三頭か?)いて皆馬鎧を着けているが、人間の姿をしている上半身は背中から首にかけて繋がった鎧に顔は兜で上半分を隠しただけだ。つまり何が言いたいのかというと。

「すげえおっぱい揺れてる……」

 全く隠す気のない胸は、もうこれでもかってぐらい馬の動きに合わせてばいんばいんと乳房を揺らしている。背中と顔は隠していてそこは隠さないのか。でもきっとこの先女のおっぱいをじっくり見れる機会は無さそうなのでとりあえず拝んでおこう。ありがとう、大きいおっぱい。あとその後ろにいる控えめなおっぱいさんもありがとう。
 すっかり胸に釘付けだったが、よく見るとおっぱいさん達は手に弓や槍を持っている。あれ、これもしかして結構ヤバい状況なんじゃないだろうか。ジークを振り返ろうとした時、おっぱいさんの一人が御者に向かって口を開いた。

「その紋様はイールスンの王属であるか!」

 窓から御者の方を見れば、何やら赤い布がはためいている。確かさっきまではあんなの無かったはずだ。
 おっぱいさんの言葉に、ジークは窓に手をかけながらため息をつく。

「サーヴァめ、言伝てをしておらぬな。我はジークハルド・バーンハート・フィリ・エイドリアンス・ツェベリロンドミニア・イールスン。ナルシアの面会にきたのだ、案内せよ」

 窓を開けて張り上げたジークの声に、御者へ視線を向けていたおっぱいさんたちは驚いたように振り返る。そして速度を落として客車の横に並ぶと、ジークの顔を見て眉をしかめた。あ、そっか。こいつ今見た目は金髪優男だもんな。
 そうやって本人だと証明するのかと考えていると、後ろに圧迫感を覚えた。振り返れば、いつものジークが俺の後ろから窓に顔を覗かせている。金髪優男と比べると身長とか体格とか全体的に1.5倍ぐらい大きいので、馬車の中が狭くなったように感じてしまう。
 窓とジークの間にいた俺は、会話の邪魔にならないようにとその場から抜け出ようとするが、腰にジークの手が回って脱出ならず。「ぐえ」と思わず声をあげると、小さい方のおっぱいさんが俺に気付いて目を丸くさせていた。
 そして多分この三人のリーダーなのであろう大きいおっぱいさんは、ジークの姿を見て息を飲むと頭を下げる。この人たちさっきから前見てないけど大丈夫だろうか。わき見運転は事故るぞ。

「失礼致しました。無礼をお許しください」

 大きいおっぱいさんはそう言って手に持っていた槍を馬鎧に取り付けられていた鞘に仕舞う。そして代わりに腰から短剣を取り出すと、それを自分の喉元に……ってオイ!

「コラちょっと待て、俺の前ではそういうの禁止だ!お前も死んで謝るのやめろ、命を大事に!」

 アネリの件で学習した俺は大きいおっぱいさんの行動に慌てて制止をかける。そこで大きいおっぱいさんも俺に気付いたのか、目を丸くさせて固まった。とはいえ馬の部分は速度を変えず走り続けている。上半身と下半身は別の意識なんだろうか。
 俺は振り返ってジークを睨みつけると、意味が分かったのか困ったように笑みを浮かべた。そう、後で殺すとかも無しだからな。



←back  next→

>> index
(C)siwasu 2012.03.21


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -