魔王様と新婚旅行24



「欲しいものがあるなら何でも用意するぞ」
「いや、こっちだとそうさせてもらうけど、これは俺の都合だからお前に頼るのはちょっと違う」

 と、いうかジークが用意したものをロジが受け取れるかという問題もある。あと流石にゲームソフトは自分で買えって言われそうだ。
 ただ問題はロジがこの話を受けてくれることを前提として、相手の求める価値が人間の領土で通用する金なのか、それともアイテム類なのか。今度聞いてみるか。

「そうですね。アルバイトでしたら、ユーリ様は寝転がって疲れを癒していただくだけで得られるものがありますよ」

 俺たちの話を聞いて床にいるアネリが何かを考えるように頬に人差し指をついて言う。

「何その美味い話。逆に怖えよ」
「不審に思われる必要はありません。むしろ今まで渡していなかったことを訴えていただいてもいいのですよ」
「は? どういうことだ」

 全く分からない。体を起こして首をかしげる俺に、ジークも何かを思い出したように声を上げた。

「ああ、あれか。ユイスが唯一ユーリを褒めていたな」
「ユーリ様がいらしてから城の財は潤う一方ですもの。ユイス様がご機嫌になるのも仕方ありません」
「おい、それはつまり本来俺がもらえるものが全部ユイスに横取りされてたってことか?」

 ガミガミドラゴンのことを思い出して半眼になる俺に、アネリは慌てて付け加える。

「勿論、財産はユーリ様が自由に使われて良いものです。ですからジーク様のおっしゃる通り必要なものはこちらで全て取りそろえることが可能ですので、ユーリ様がアルバイトをする必要はないのですよ」
「そう返ってくるのは分かってたけどな。でもお前らの言うものが何なのか気になるし、折角だから体験してみてえ」
「いつもしておるではないか」
「はあ?」

 ますます分からん。だが教える気はないのかジークはニヤニヤとこちらを見てくるし、アネリはジークがこの調子なので言えずにいる。

「それは今日からでも可能なのか?」
「ええ、勿論。お疲れでしょうし、今晩早速お使いください」

 言葉の端から答えを探ってみるが、いつも体験していて寝転がっているだけで財産になるものなんて全く心当たりがない。
 気付けば携帯ゲーム機を放り出して考え込んでいたら、シャーロッテが顔を上げて窓の方を見る。

「水の音が近い。ユーリ様、ヨヌ川が見えたよ」
「お、マジか」

 見せたいほどならよほど綺麗なものなのだろう。俺は窓から顔を覗かせて目の前に広がる光景に息を飲む。

「すげえ…なんだこれ」

 一面に広がるのはエメラルドグリーンの水面だ。太陽に反射して光るそれは、宝石を散りばめているのではないかと思うほど煌めいている。
 そのまま川沿いに走る御者は、俺に気付いたのか少し川に近付く。窓を開けてもいいと言われたので開けてみると、心地いい風と共に爽やかな香りが鼻を刺激した。

「めちゃくちゃいい匂いするけど、これ川から香ってきてるのか?」
「ええ、その美しさと香りがヨヌ川の特徴です。ヨルムン川の中でもこのエリアのみ生命の水と呼ばれていて病を治したり疲労を回復させるほど栄養価が高いんですよ。ただ汲み取るには難しい手順が必要な上、緑礬油以上の腐食性があるのでお気をつけください」
「緑礬油?」
「人間の間では硫酸と呼ばれるものです」

 アネリの言葉に窓から顔を出していた俺は慌てて引っ込める。硫酸と違いガスは発生しないので触らなければ大丈夫だと言われたが、俺は苦笑いして窓を閉めた。
 それにしても綺麗だ。水中に生き物はいないのだろうか。いや、溶けるのにいるはずないか。
 そんな危険なものなのに栄養価が高いという矛盾。いや、飲めねえだろ。

「ここの水を汲み取れるのは西の魔王様だけなんだよ」
「じゃあ人間にとっては観賞用なんだな」
「ええ。ジーク様は時折汲み取った水を分け与えているようですが」
「……お前、魔王のくせに人間に優しすぎるだろ」

 魔王とは一体。
 目を逸らすジークに、俺は半眼を向けながらため息をつく。この魔王に子供を預けるぐらいだ、人間の王様もきっとどこか頭のネジが一本飛んでるに違いない。だからこそ東の国は争いもなく穏やかなのだろう。



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(C)siwasu 2012.03.21


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