魔王様と新婚旅行23



 狭いベッドで寝心地は悪かったが移動で疲れていたのか、気付けば朝になっていた。寝返りを打てるということはジークは横にいないな。
 瞼を開けて、シーツの上ではなく椅子の上に座っている金髪優男と目が合うと、頭を撫でられる。ジークは既に身支度を整えていて、俺も起きた方がいいのだろうかと上体を起こしかけたが目の前の手に制された。

「朝食は運ぼう、ユーリはもう少し寝てるがよい」
「あー……じゃあそうさせてもらうわ」

 正直なところまだ眠かったので有難い。毛布をかけなおして横になる俺を見て、ジークは目を細めた。

「昼にはこの町を発つつもりだ。本来なら一緒に露店を回りたかったが、この状況ではユーリも居心地が悪いだろう」
「そうだなあ。色々見てみたかったけど」
「安心しろ、王には昨夜事情を伝達してある。手続きに時間はかかるだろうが、身分の不都合は解消されるはずだ」
「ああ、そっか。そういう裏技もお前なら使えるんだな」
「気付くのが遅かった。宿に着いてすぐ伝えていれば、朝には返事を受け取れただろうが」

 ああ、なるほど。昨日の夜に休憩もせず手紙を書いてたのは俺のためだったのか。
 礼を言いながら半分夢の世界に旅立とうとする俺の頬をジークの唇が掠める。
 顔にかかる金を見て、やっぱり赤が好きだなあと思いながらも、意識はすぐに沈んでいった。



◆◇◆



「いやあ、馬車の中って快適だなあ」

 こうして一晩宿に泊まってみると、この馬車の快適さが身に染みる。宿のベッドより柔らかいクッションに、窓はこちらから外が見えても外からはこちらが見えない所謂マジックミラー仕掛け。椅子の上で仰向けに寝転がりながら、堂々と携帯ゲーム機で遊ぶ俺の寛ぎっぷりを見て、ジークは呆れた視線を向けてくる。

「町にいる時のユーリは遠慮がちで可愛かったが」
「当たり前だろうが。偉そうにしてたらアウト、姿みられてもアウトってもうコソコソするしかねえじゃねえか」
「商人に見つめられて不安そうに手を繋いできた時などどれだけ抱きしめたかったか」
「は? んなことしたか?」

 悪いが身に覚えがない。視線をジークに移すと頬をふくらませているが、全く可愛くないし。

「わざわざローブの中に手を忍ばせてきたではないか」
「あ、ああ、あー、あれね」

 あれは感謝の意味だったのだが、どうやら俺が怯えていると思っていたらしい。意思疎通出来てなかったのか。
 説明すると「恥ずかしがらなくてもよい」と言われたので、それ以上は訂正する気も起きず放置することにした。魔王城でニート生活満喫しているぐらいの図太い俺がこんなことで怯えるわけないのだが、ホームシックで多少は泣きべそかいてたのでいつもと違う俺という意味では間違っていない。とはいえ慣れたらきっといつも通りな気はするが。
 思い出しているのかうっとりするジークから視線を戻した俺は、中断していたゲームの続きを淡々と進める。そろそろこれ五周目だから飽きてきたかもしれない。でもなあ、ロジに新しいソフト買ってもらうわけにもいかねえし、こっちにいる以上あっちの金を用意することも出来ない。

「いや、でもあっちで必要な分と同じ価値をこっちで渡せばいいんじゃね?」
「何の話?」
「んー、バイトしてえなって話」

 ジークの膝にいるシャーロッテが聞いてきたので素直に答える。今日は片側の座席スペースを俺一人で陣取ってるので、そこしか座るスペースのないシャーロッテはたまにジークに頭を撫でられて甘えている。お前、俺の時と態度がえらく違うじゃねえか。
 ちなみにアネリは床で正座中。最初は座るか聞いたのだが、俺が遠慮なく寛いでる姿を見ていたいからと言われたのでお言葉に甘えている。しかし座席でのんびりしているシャーロッテと床に座るアネリの状況はやはり慣れない。見た目が人と犬であることも原因だろう。



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(C)siwasu 2012.03.21


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