魔王様と新婚旅行22



「いつもならユーリの傍にいるだけで情欲が沸き立つのだが、あの一件以来全くそのような気が起きず」
「俺は横にいるだけで発情されてたって事実の方がビックリだわ」

 え、なにこいつ。いつも俺が気付いてなかっただけで股間膨らませてたわけ?
 ちょっと引いたが、所謂EDになってしまったジークの手前顔には出さないようにする。
 やはりボコられたのが相当堪えたのだろう。だって魔王だもんな、始めて受けた家庭内暴力(ではないが、まあそういうことにしておこう)で受けた心の傷はなかなか大きかったようだ。

「ええ、なんかごめんな」
「自業自得なので気にすることはない。そもそも幼稚な嫉妬からの興味本位で酒を飲ませた私が悪いのだ」
「うん、そこは掘り返すと感情的にお互い面倒なことになりそうだからやめよう。過ぎたことは仕方ない」

 理由を知ったとしてもロジのことが許せないのだろう。ジークから滲んできた黒いオーラに俺はさっさと話を切り替える。

「まあ、大丈夫だろ。すぐに治るって」
「うむ、私もそうありたいと思う」

 眉尻を下げるジークはそう言って俺を抱きしめた。なるほど、だからこんなにゆっくり密着できるのか。普段なら今頃尻尾が俺のケツ付近をうろうろしてるはずだ。
 事後は俺が速攻寝るのでこうやって抱きしめるジークを間近で見ることはあまりない。朝も大体あいつの方が先に起きてるからな。俺はユイスに起こされない限り昼頃まで寝てるが。
 新鮮な状況にそれなりの満足感と高揚感を覚えながら、俺はジークの頬を撫でた。

「じゃあキスも無理か?」
「いや、むしろ歓迎だ」

 どうやらこのお誘いはお気に召したらしい。唇を寄せてくるジークに、俺はだがしかし口を両手で抑えて待ったをかける。

「その前にちょっとだけ頼みがある」
「なんだ」
「せめてキスする間だけでいいから、元に戻れねえか」

 ジークからすれば俺は変わりないのでいつものように戯れてくるが、こっちは本日初めてご対面した見た目を相手しているのだ。ジークとは分かっているが、視界から入ってくる情報にはまだ慣れそうにない。
 要するに、浮気しているような気分になってくるのだ。

「ふむ、その程度なら。少し待て」

 そう言ってジークは俺を腕枕していない方の手を宙に掲げると、指を立てて小さな円を描いた。すると部屋の中が少しづつ暖かくなり、ジークの髪も金から赤に変色していく。この変わった空気はどこか魔王城に似ている。

「数分しか保てぬが結界を張った。これなら問題なかろう」

 気付けば、髪や目の色だけでなく体格も変わっている。頭の角に触れて、間違いなく見慣れたジークの姿であることを実感すると、俺は目を細めた。

「あの金髪優男も見慣れてくれば悪くねえけど、やっぱこっちのが落ち着くな」
「ユーリは変わっておる。普通の人間は、この姿を見て悲鳴をあげるのだぞ」

 ジークの首に腕を絡めて首筋に顔を埋める俺に、苦笑が落ちてくる。

「仕方ねえだろ、俺が惚れた相手は今目の前にいるお前なんだから」

 顔を上げて唇を寄せれば犬歯が見える。そうそう、こいつが笑う時これが見えないと落ち着かないんだよな。
 触れるような口付けを交わして、少しずつ深いものに変えていく。舌に擦れる鋭い感覚に腰がぞくりと震えながら、俺は唇を離して足をすり寄せた。太ももに当たるジークの息子さんはやはり無反応だ。なるほど、勃たないというのは本当のようだ。そして、反対に俺はというと。

「やべえな」
「何がだ」
「俺の方が勃った」

 いつの間にか金髪優男に戻ったジークに爆笑されたので、とりあえず頭突きをお見舞いしておいた。
 最初は負担が減ってラッキーとか思っていたが、このままでは俺の方が我慢できないかもしれない。
 とりあえず明日アネリにEDの治し方を知ってるか聞いてみよう。



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(C)siwasu 2012.03.21


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