魔王様のお願い2



 ようやくあのガミガミドラゴンから解放されてジークの部屋の寝室に通された俺は、部屋の主の許可も得ずそのまま走ってベッドにダイブ。そしておやすみの一言もなく爆睡してしまった。いやだって本当にここ最近寝てなかったんだよ。
 起きたのは日もどっぷり暮れた夜で、辺りを見回すと俺以外誰もいなかった。とりあえず腹が減ったので部屋を物色してみるものの食べ物は何も見つからず、俺は迷わず一つしかない扉を開けた。

「おお、ユーリ起きたのか」
「…腹減った」

 デスクで仕事をしているらしいジークは顔を綻ばせて俺を見た。うっかりその姿に職業病なのかむずむずしてしまったのは心の内に留めておく。何だかんだで会長職は面倒臭いが嫌いじゃなかったらしい。
 誤魔化すように空腹を告げると、「すぐに運ばせよう」とデスクの上に鎮座していた蝙蝠を飛ばしていた。伝達係みたいなものか?

 少し待つと、香りのいい食事をメイドさん達が持ってきてくれた。魔王城の食べ物だからもしかして人間の丸焼きでも出てきたらどうしようかちょっと不安だったので、見た事無いものばかりだが普通っぽい食事に安心する。ついでに2匹の食べ物も用意してくれたメイドさんに頭を下げたら何故かビックリされた。
 恐る恐る中央にあるテーブルに並べられた食べ物の一つをゆっくり口に含んでみる。…うん、美味い。食べられると分かった為本格的に食事をすべく俺はいそいそと席に着いた。

「…すまぬな、ユイスはドラゴン族の中でも地と森の種族故に人間には特に厳しいのだ」

 暫く俺が食べることに夢中になっていた為無言の空気だったのだが(相当腹をすかせてたらしい)前に座るジークが話しかけてきたので顔を上げると眉根を下げながら謝罪していた。
 ユイスってさっきのドラゴンさんのことか?

「あ、あー…別に気にしてねーよ。ていうか今思えば別にヨメじゃなくても構わなくなってきたっつーか」
「それは許さない。私はユーリを心の底からヨメにしたいと思っているのだ」
「あっ、そう」

 くそ、ガミガミドラゴンの話を聞く限りヨメも十分面倒臭そうなので辞退しようと思ったのに。

「…そこでお願いがあるのだが、明日東の国の魔王との会談があるのでユーリも同席して欲しい」
「え?他にも魔王がいんのか?」

 魔王って普通1人じゃねーの?と、思い流石に聞いてみれば東西南北それぞれに魔王がいて人外達をまとめているらしい。ちなみにジークは西の国の魔王だとか。その際ちょっと訝しげな目を向けられたが、一部記憶喪失とか適当な事を言って無理矢理納得させた。
 くそ、どうやら追々この世界について学んだ方がいいのかもしれない。面倒臭いが。

「え?で、会談?だっけ?面倒臭いからパス」
「言うとは思っていた」
「だったら聞くな」
「しかし東の国のに認められればユイスも納得してくれるかと…」

 やたら粘るな。俺は困ったような顔を見せるジークに半眼の目とフォークを向けた。行儀悪いとかそんな事知るか。

「あのな、俺は面倒臭いことは嫌いだって言ったよな?お前がヨメになれば楽出来るっつーから俺は了承したんだ。なのにいざ来てみればガミガミドラゴンにはヨメを認めないだのなんだの言われて…」

 話が違うだろ、そう続けようとした声は目を潤ませるジークによって遮られた。こら待て、お前まさか泣く気か。

「…泣くな、よ?」
「泣かん」
「…じゃあ何でそんな泣きそうな顔してんだよ」
「しておらん」
「…お前そう言いながらお前涙零れ…くそっ、同席すりゃいいんだろ、同席すりゃ」
「本当かっ!?」

 その嬉しそうな顔は分かったから、さっさと涙を拭けこの野郎。そう言いながら近くにあったナプキンを放り投げると慌てて目を拭う一応魔王様。こんな泣き虫が魔王で大丈夫なのか。

「だからって謙るつもりも媚売るつもりもないからな」
「分かっておる。ユーリはそのままが美しい」

 少し目の赤いジークがそう笑いかけてきたので、不覚にもドキリとしてしまった俺は黙って食事を再開した。
 会談…よく委員会でやる会議とかとは訳が違うんだろうなと思いながら、その日はジークと一緒に寝室で就寝。寝る前から人の身体をやたら触ってくるので間にピグモとアラモを挟んだら唸るような声が聞こえたが無視だ、無視。
 あぁ、明日が憂鬱だ。面倒臭い。



end.



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(C)siwasu 2012.03.21


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