魔王様のお願い1 何故か会長席のサイドキャビネットの引き出しから異世界へタイムスリップしてしまった俺は、成り行きで魔王のヨメになることになった。ちなみにヨメとは、元の世界の嫁よりも厳しい掟がオプションとしてついてくる伴侶のようだ。 そんな俺は現在魔王城にて 「駄目です。捨ててきなさい」 魔王であるジークの腕の中で緑色の男に睨まれていた。 ちなみに俺の腕の中にはモグラもどき2匹。結局ジークの許可を貰って連れて帰った。一瞬子供なら母親が探しにきたりするんじゃないかと考えたが、どうやら成人済みらしいので一安心。名前は頭の毛がピンクい方がピグモで青い方をアラモと決めた、今。 「嫌だ!これは私のヨメにする!」 「何を寝ぼけたこと言ってるんですか」 ジークの言葉に緑色の男は呆れたような視線を向ける。 そう、緑色の男は本当に全部が緑色だった。肌は若竹色、髪は深緑、服は草色って所か。違う所と言えば目が黄色で角と羽が千草色…って大して変わんねーじゃねえか。角と羽の形状を見る限りドラゴンかなんかじゃないかと推測する。だって肌にうっすら鱗も見えるし。 「見よこの髪と目!この濡羽色は神王のようで麗しいではないか!」 「ぐえ」 こらジーク、人の首を変な方向に曲げるんじゃない。お前等と違って人間なんだから首の骨が折れるだろうが。そしてピグモとアラモが首を傾げて俺を見上げている可愛いだろ畜生。 「確かにその色は褒めるべきものでしょうが…」 俺の世界にはこんな色ごまんといるんだが。と、言いたかったが口を噤んでおく。おそらくこの世界では黒髪黒目が珍しいものなんだろう。 「それに、ユーリは自ら死を選ぼうとしていた。そんな勇気のある者だ、きっと我がヨメとして立派な働きを…」 「死ですって!?」 ジークの言葉にドラゴンらしき男は思わず大声を上げながら翼を広げていた。おいおいおい、ついでにトカゲのような顔に変わってきてるぞ。やっぱりドラゴンか。 そんなドラゴンっぽい男(いやもうドラゴンでいいだろう)は顔もそのままに、俺をキッと睨みつけると突然顔を鷲掴みされた。手から伸びてる爪が皮膚に食い込みそうで結構危ない。2匹も怯えたように体を縮こまらせているので俺は思わずドラゴンさんを睨み返す。 「あなた、自ら死を選ぶと言う事は冥王の奴隷になると言う事なのですよ?分かっているのですか?」 「あー…っと」 そもそもさっきから出てくる神王とか冥王とか誰なんだよ一体。けど聞いてしまったら自分が別の世界から来たことを説明しなければいけない感じなので適当に頷いておく。だって説明するの面倒臭えし。 そんな俺を見てドラゴンさんは手を離すとフン、と鼻を鳴らした。いや、けどまだ顔が半ドラゴンの状態なのでブフォッ、みたいな鼻息だけど。 「それでも人間は脆弱です。踏んでも死ぬ、噛んでも死ぬ、息を吐いても死ぬ」 「いやいやいや、それはあんたがドラゴンだからで…」 「何故僕がドラゴンだと知っているのですか!?」 え、何このデジャヴュ。勘弁してくれ。 「ユーリは私の事も魔王だと見破ったのだぞ」 そしてお前は自慢げに胸を張るんじゃない。それ多分この世界では情けない話なんだからな、ドラゴンさんだって呆れた目を向けてるし。 「…そこの人間」 「あ、俺?」 呼ばれて見れば、いつの間にか元の顔に戻ったドラゴンさん(そういやこいつも背高いし顔整ってるよな、緑だけど)が親の仇でも見るような目で俺を睨みつけていた。 「ジークハルド様をどうやって誑かしたのかは知りませんが、我々は人間がヨメになるなんて認めませんからね」 我々って多分他の人達も入ってるんだろうなぁ。元の世界にいた副会長に似ているドラゴンさんはどうやら俺の苦手な人種(ドラゴン種?)のようだ。 まだ頭上で言い争う二人の下で、俺はこっそり溜め息をついた。面倒臭い…。 >> index (C)siwasu 2012.03.21 |