魔王様と新婚旅行21 飛んでいく後姿を見送っていると、ベッドが沈む感覚を覚える。振り返ればジークがベッドに乗ってきたが……やっぱりそうだよな。 この部屋のベッドは一つしかない上に、男一人でぴったりな大きさしかない。と、なると俺は床で寝るしかないか。アネリとシャーロッテが使わないのならあっちのベッドを借りたいところだが、奴隷の立場である以上主人を置いて部屋を移動することは出来ない。 幸い毛布は二枚ある。俺は厚みがある方の一枚を掴んでベッドから降りようとしたが、ジークが俺の腰に手を回して不思議そうに首をかしげた。 「どこへ行く」 「いや、床で寝ようかと」 「何故」 いや、何故って。眉を寄せる俺を見て、ジークは何を思ったか顔を曇らせて悲しそうに俯く。 「やはり、この見た目が好かぬのか」 そう言って目尻に涙を溜めるジークに、俺は慌ててベッドに腰を下ろした。 「ちげーよ、いや、まあ違うこともないけど。じゃなくて。そもそもこのベッド、一人用だろ?」 「狭さを気にしているのなら私が床で寝よう」 「いや、それは流石に」 この金髪美形が床で寝る姿は想像できない。それに万が一その状況を誰かに見られると面倒なことが起こるに決まっている。 どうやらジークはこの狭いベッドに二人で寝るつもりだったらしい。それならまあ、床で寝るよりはいいかと俺は素直に壁際を陣取らせてもらうことにした。 城ではほぼ全裸で寝ていることが多かったため、どうもこのゆったりとした布地の寝間着が落ち着かない。脱ぐか脱がないか考えていると、ローブを羽織っていたジークが躊躇いなく脱いだので俺もその勢いに便乗した。うむ、全裸最高。 「寒くないか」 「んにゃ、むしろくっついてる分あったかい」 男二人、狭いベッドで全裸で寝ている光景は誰がどう見ても誤解を呼ぶだろう。誤解じゃないけど。 城ではこれの三倍以上はある広さだったので、こうやってぎゅうぎゅうになって寝るのは新鮮だ。 当然のように差し出された腕に頭を預けて、俺は視界に入った金にふと顔をあげて真正面からジークを見た。 赤い髪もない、金の瞳もない、角もない。まるで別人のようだが、確かに目の前にいる金髪の優男は俺の旦那だ。 隠れた左目をそろりと持ち上げると、目の周りにあざが見える。最初は紫色だったが今は青っぽくなってるので、普通の打ち身なら一週間程度で治るだろう。 「せめて見えないところなら隠しようがあったのにな」 「他人事だな。いや、お前らしい」 謝罪はしたが、本当に覚えていないので他人事にもなる。ジークが喉で笑いながら足をすり寄せてきたので、自分の足を絡めてみる。 「するか?」 「いや、今日はユーリも疲れただろう」 そう言って視線を逸らすジークに、俺は半眼を送り付けた。いつも疲れてようが構わず盛ってくるこいつがそんな遠慮をするはずない。 黙って見続けていると、視線に耐えきれなくなったのか、ジークはため息をついた。口を開くが歯切れが悪い。 「まあ、うむ。そうだな。まだあれから三日しか経っておらぬので、確証はないのだが」 「なんだよ、はっきり言えよ」 「む、うぬ、その…………ぬのだ」 「あ?」 小さな声で聞き取れず思わず眉を吊り上げる俺を見てジークが焦る。そして口をもごもごと動かしながら視線を彷徨わせてぼそりと呟いた。 「いや、だから、その……た、勃たぬの、だ」 「は?」 突然の告白に理解が追い付かず、俺はぽかんと口を開いたまま固まってしまう。たたぬ、たたぬ……あ、勃起しねえってことか? 「え、なに、ここ反応しねえの」 「こ、こらユーリ!」 膝頭でジークの股間を撫でると、腰が逃げていく。確かに感触では一切反応していないようだ。 大体毎日股間膨らませてるこいつが無反応な姿は初めて見るのではないだろうか。 >> index (C)siwasu 2012.03.21 |