魔王様と新婚旅行19



「手紙か?」
「うむ、アルヴェルト国王にな。先に伝達が送られている筈だが、一応私からも訪問の旨を教えておいた方がよいだろうと思ったのだ」

 たまに新米の警備が伝達に来た魔族を迷い込んだと勘違いして討伐してしまうことがあるらしい。魔王専属となるあの蝙蝠さんは戦闘能力も高いのでそういった心配はないんだとか。

「最初からお前が出す方が早いんじゃねえの」
「私が直接王とやり取りするのは体裁上都合が悪いのだ」

 ああ、そういや俺も犬猿の仲と噂される風紀委員長と廊下で話してるだけでよく誤解されたな。一年の時に風紀入りを断った手前一方的な気まずさはあるものの、現風紀委員長とは関係ないので仲が悪いわけでもないし、かといっていいわけでもない。至って普通。ただあそこの副委員長は超モフモフの癖毛わんこだったので良く追いかけまわしてたが。
 所詮高校生レベルの俺と比べ物にならないことは分かっているが、人の上に立ってると面倒なことが多いんだよなあ。
 頷いていると、俺の髪を乾かし整えマッサージを終えたアネリが立ち上がる。ちなみにジークは必要ないと世話を断っていた。

「それではジーク様、ユーリ様、私たちはこれで。外壁と窓に指を置いていますが、何かあればすぐにお呼びください」

 そう言って左手を掲げるアネリの薬指と小指の先は、いつの間にか第二間接あたりから消えている。え、今さっきまで俺のマッサージしてたよな。確かに指の感触はあったぞ。
 そわそわしてる俺に気付いたのかアネリが扉を開けて手招きすると、扉の隙間からアネリの小指が顔を覗かせていた。
 いつの間に移動したんだ。床を這って近付いてくる小指がベッドに腰かける俺の前に来ると、小さくお辞儀のような動きを見せる。ちょっとグロいが見慣れてくると可愛い。

「これ自身に知能はありませんので、今のは私の脳を通して動いたものですが、生物としての本能は残っているので、敵意や悪意を感じ取るとすぐに特別なフェロモンを出して私に知らせることが可能です。城でもユーリ様のお傍にいたのですよ」
「マジかよ、全然知らなかった」

 流石にバラスでは交代制でメイドだと思っていたフランベスタたちが見張ってくれていたらしいが、俺がソファーでポテチ食いながらゴロゴロゲームしてる時もアラモとピグモと遊んでいる時も入浴中も更に言えばジークとの営み中も常にいたのかと思うと微妙な顔になる。そうか、こいつらには全て見られていたのか。

「あ、あの、あくまで気配のみで目や耳はないため諜報活動は出来ませんから」
「そうか、それならまあいいか」

 本当に見たり聞いたりするなら目や耳を使うと聞いて少し安心する。シーツとか交換してくれているのがアネリなので、全部バレバレなのは分かっているが、やはり事後と最中では全く違う。
 元の位置に戻っていく小指に手を振っていると、次こそとアネリとシャーロッテはジークに頭を下げた。

「ご苦労だった。あとは目立たぬよう自由にするがよい」

 まだ用事は済んでいないのか、机上に視線を向けたままのジークは手だけを振る。そんなおざなりな態度を気にすることなく二人は部屋から退出した。俺はジークの言葉が引っかかって上体を起こすと、ベッドのすぐ横にあるテーブルの縁に指を乗せてジークの顔を下から覗きこんだ。

「あいつらは寝ないのか?」
「ああ、ラゴーブルは夜行性だ。このあたりに危険がないと判断すればヴォルフラムを連れて狩りにでも出かけるだろう。フランベスタはそもそも睡眠を取らぬ」
「ちなみに城で寝るのって俺とジークだけなのか?」

 あ、でもピグモとアラモも寝ていたな。

「休息、という意味ではラゴーブルも寝ているぞ。眠りは浅いが、私たちの横でも、お前が撫でている間も眠っていただろう」
「あの目閉じて大人しくしてた時って寝てるのか」



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(C)siwasu 2012.03.21


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