魔王様と新婚旅行18



 そう考えると半分人間の血が混ざっているロジと最初から冷徹だったユイスは除外として、アラモやピグモはとても人間臭い。魔族によっても違うんだろうか。
 俺の悩みに対する回答は、とても単純だった。

「地域の違いだよ。今は色々とごちゃ混ぜになってるけど、元々ラゴーブルの祖先は南に生息してたって聞くし、私とアネリは北の出身だ。南に行くほど人間との共存意識が強くて祖先が人間と交わっているから、どうしたって人間臭くなる。長く人間と憎しみ合っている北の私たちからすれば、そっちの思考の方が信じられないよ」
「そんなに北は殺伐としているのか?」

 ベッドの上でアネリのマッサージを受けながら、俺は何も考えずに質問した。床で寛いでいるシャーロッテの目が鋭く光る。

「北の人間は好戦的で魔族を狩ることを趣味にしてる奴もいる。魔王様が北の大地を豊かにしたってのに悪だと決めつけ事あるごとに勇者を選び攻め込んでくる。滅んでしまえばいい」

 おっと、地雷を踏んでしまったようだ。シャーロッテが敵意を向けているのは北の人間だけなので、俺やこの町の人間のことは気にしていない、というが正直どうでもいいのだろう。
 手が届く距離にいたので宥めるように首を掻いてやったら落ち着いたのか大人しくなる。

「ジークも言ってたが勇者、ってやっぱこの世界にもいるんだな」
「私の国にはいないぞ、あんなもの形式上の体裁で実際のところ効率が悪い」

 壁際の机に向かって紙に何かを書いていたジークが顔を上げて話に乗ってくる。
 まあ確かにガチのバトルなら軍隊でも使って戦争した方が手っ取り早い。

「でも俺の世界だと魔王を倒せる唯一の剣を使えるのは勇者だけ、とか勇者の力でないと魔王を封印出来ない、とかあるんだけど」
「そう言った類の噂は北の方でよく聞くが、私達魔王は不死身ではない。普通に脳や心臓を狙われれば死ぬし、殴られれば怪我もする」

 うむ。それは俺が実証済みなので知ってる。
 怪我をしている方の目を隠したジークの金髪を見つめていると、そんなつもりはなかったと言いたげに髪を弄った。

「じゃあ、ジークが見つかると面倒って言ってたのは北の国で選ばれた勇者なのか?」
「いや、東の国だ。サーヴァはあまり人間と友好的では無くてな」

 それは出会いの反応で知ってる。曖昧な言葉で濁すジークの顔を見て、俺はその裏があることを察した。

「正確には?」
「人間の王に嫌がらせをするばかりか『脆弱な人間が我を倒せるものなら倒しに来い』と煽るせいだ」
「ちなみに噂では二ヶ月ほど前、王の寝室にノミをばら撒いたと聞きました」

 子供かあいつは。
 思わず半眼になる俺に、ジークはため息をこぼして遠い目をする。

「その上『西の国の魔王は弱いから倒しやすいぞ、倒せば一気に領土拡大の上我の城の背後を取れるぞ』と唆すせいで東のターゲットがこちらにも向いてくるのだ」
「完全なとばっちりじゃねえか」

 長らく見ていない美人の白髪が脳裏で高笑いしている。あいつ、とことんジークに嫌がらせしないと気が済まないんだな。
 俺は胸中でサーヴァの評価をドS野郎からジャ〇アンに塗り替えた。あいつの奥さんも性格が悪かったりしないだろうか。不安だ。

「ユーリ様はあまり気になさる必要はありませんよ、基本的に東からの介入は西の王が阻んでくれていますので」

 ああ、そうか。東がジークの城に行くならサーヴァの領土を越えるか西の人間の領土を越えるしかない。サーヴァの領土を越えるのはそもそも本末転倒だし、西は国王とジークが友好関係を築いているからそう簡単には突っ切れない。

「とはいえ、こちらを勇者がうろついていない訳ではないので用心にこしたことはない」

 そう言ってジークは書き終わったのか紙を折りたたむと封筒に入れ、封蝋をする。それをいつの間にか窓際にいた蝙蝠に渡すと、蝙蝠は夜闇の中に消えていった。



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(C)siwasu 2012.03.21


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