魔王様と新婚旅行17



 自分の感情を噛みしめていると、そういえばとシャーロッテに視線を向けた。

「なあ、他の馬車に乗ってたヴォルフラムは放置でいいのか。護衛ならシャーロッテみたいに傍にいるもんだと思ってたんだが」
「あれは人間が嫌いだから滞在中は売り物と一緒に引きこもってると思うよ。多分誘っても出てこない」

 シャーロッテは細かい音や気配を察知することに長けているが、ヴォルフラムは戦闘特化型で大雑把だから町ではあまり役に立たないらしい。アラモが懐いている相手なので一度話してみたいと思っていたのだが残念だ。
 子供や小さいものが好きだが社交性はなく、狩りでも単独行動が多いと聞いて俺は学園にいた一匹狼の存在を思い出した。誰とも慣れ合わない不良だったが、同室になった背が低い転校生にあっさりと陥落されてやがったな。……やめよう、思い返すとまた腹が立ってくる。
 同時に腹の音が鳴ったので、俺たちはそのまま飯を食いに一階へ移動した。
 ジークは中央にいくつか並んでいる普通の丸テーブルに座る。その横にアネリが立ち、シャーロッテはジークの足元で大人しく寝そべっている。アネリは空気中の魔力が栄養源らしいので飯を食わなくても平気だし、シャーロッテは人間の食べるものがほとんど毒になるという。ジークもいつだったか飯は嗜好品だと言ってた気がする。なのに何故お前らがそこにいる。人間のふりをしているため形だけのものだと分かっているが、半眼を向けずにはいられない。
 奴隷用の席に腰を下ろす俺は、勿論飯を食わないと死ぬ。だから食う。例え藁で敷いただけの床に座って残飯のようなものを渡されたとしても、腹が減っていれば食わねばならない。
 曲がったスプーンでごった煮みたいなものをすすりながら少し惨めな気持ちになったが、意外と美味しかったので普通に3回ぐらいおかわりした。流石に3回目にもなると店主はちょっと嫌な顔をした。
 俺以外に座っているのは小汚い恰好をした小さい女の子と、顔に大火傷の痕がありどうやら片目が見えないらしい男と、貧相なおばさんだけだ。世間話でもしてみようかと考えたが、奴隷は言葉が分からない奴が多いことを思い出してやめた。実際おばさんはあー、とかうー、しか言ってない。下手に話しかけて余計なトラブルになっても面倒臭え。
 女の子はこの中じゃマトモな格好をしている俺が気になるのかチラチラと見てくるが、おそらく女の子の主人であろう恰幅の良いおっさんがこちらを睨みつけていたので気付かないふりをした。まさかとは思うがこんないたいけな子に性的な悪戯してないだろうな、おっさん。

「ないとは言い切れませんが、基本的に奴隷を性玩具として扱うのは禁止されているため大丈夫だと思いますよ」
「でもなんかこう、モヤっとすんだよ、モヤっと」

 ジークの部屋に戻った俺は、ここぞとばかりに世話を焼いてくるアネリに愚痴をこぼした。最初は謝罪を繰り返してたアネリだったが、責めたいのではなく愚痴を零す相手がいないだけだからそこは割り切って聞き役になれと言えばあっさり感情を切り替えた。気が変わったらいつでも処罰してくださいね、と微笑むアネリに俺は微妙な顔を見せる。
 城にいた時は気付かなかったが、アネリはとても感情面に対してシンプルだ。悩みとか葛藤とかそういうマイナス思考がない。例えば俺とジークが危険な目に合っていたらアネリは迷わずジークを助ける。ジークがアネリの王だからだ。そして俺が助からず死んでしまい、ジークが怒ったり悲しんだ場合は責任を取って命を絶つ。それでおしまいらしい。生に執着も無ければ、死も恐れない。
 悲しいとか怖いって気持ちはあるようだが、やはり話していると説明し辛い違和感を覚える。
 ちなみに同じ質問をシャーロッテにしたら、護衛を任されている以上両方助ける。だが無理なら客人なので自分の身を優先させるそうだ。



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(C)siwasu 2012.03.21


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