魔王様と新婚旅行14 ロジが「カイチョーもこの世界に馴染んできた気がしたのになあ」と呆れた目を向けてくるが、知らん。腸裂かれたり剥製にされるぐらいなら俺は情緒がないと言われても髪染めスプレーを使う。 「例えばフラグ回収して俺が危険な目に合ってみろ、最終的には対策を取れるのにしなかったお前もユイスに腸裂かれて剥製にされるんだぞ」 「くそう、そうくるか。分かった、分かったよ! 髪染めスプレーでしょ。実は俺もそれ考えてて、用意しておけばカイチョーから褒められるかなあなんて思ってたしね!」 「流石ロジ、よくやった!」 俺たちの会話についていけないシャーロッテとアネリは首をかしげている。 ふふふ、見ていろ。この世界ではどうにもならない黒だって、元の世界のアイテム一つで茶色にしたり金にしたり赤に出来るんだぜ。 「で、用意したんだろ。早く出せよ」 俺は焦れるロジに手を差し出して催促する。 だがロジは困ったように笑うだけで一向にブツを出す気がない。 「いや、用意しておこうとは思ったんだけど」 「んだよ、まだ買ってないならさっさと買いに行けよ」 購買や寮の薬局にだって売ってるだろ。 天井を指すが、やはりロジは動かない。流石に嫌な予感がする。 ジッと見つめていると、ロジはしばらくしてから観念したように耳の裏をかいた。 「実は……三日前に転入生くんが学園中のヘアカラー剤買い占めちゃって今、在庫切れなんだよね」 「はあぁぁぁぁぁ!?」 まさか予想してなかった人物とその行動に俺は思わず大きな声を出してしまった。 ここは防音ではない。奴隷の立場である俺が騒いで周囲に注目されることを恐れたのか、アネリが慌てて口をふさいでくる。 「ユーリ様、声のトーンはもう少し控えめに……っ」 「いや、だって、はあ?! なんであいつがんなこと」 まさか俺が求めていることを予知して邪魔をしているのか。いや、そんな馬鹿な。 「あ、ええっ、と。転入生くん曰く『黒ばっかも新鮮で楽しかったけどそろそろ飽きてきたしカラフルなのが恋しくなってきたから皆染めようぜ☆』ってことらしいけど」 「じゃあカラフルな髪ばっかが集まるバカ高に帰ればいいだろ……!」 あの頭の悪さなら、さぞ前の高校では髪の色もぶっ飛んだ奴ばっかりだったんだろうな、畜生! いかん、久しぶりにあいつの存在を思い返すと苛立ちが沸いてきた。あの頃はんな面倒なことに思考を割くよりやることが山積みだったため気にならなかったが、この世界に来てまであいつの邪魔が入るのかと思うと一発殴ってやりたくて仕方がない。 俺はベッドに飛び乗ると、そのまま箪笥に足をかけて天井の穴に向かってジャンプした。 慌てて止めるロジとアネリの声が聞こえるが安心しろ、奴を殴って髪染めスプレーを手に入れたら帰ってくると誓おう。 だが、穴に手をかけたところで指が弾かれ俺はそのまま床に落下――は、ロジが受け止めてくれたのでしなかった。 指先が熱くて痛い。見れば、爪先が真っ赤になっている。 「何やってんのカイチョー!下手したら死んでたよ!?」 俺を抱えたままロジが真剣な顔で顔を寄せてくる。 そういや俺、元の世界に戻れないんだったな。怒りで我を忘れてたわ。 ベッドに下ろされた俺は、爪先に鼻をすり寄せながら心配そうに舐めてくるシャーロッテの頭を撫でながら信じられないものを見るような目を向けてくるアネリとロジに頭を下げた。 「すまん」 「あのね、前も言ったけどカイチョーは契約上元の世界にはいけないんだよ」 「すぐ戻ってこれば大丈夫だろうと思ってた……いや、うん、忘れてた」 言い訳してみるも、ロジの視線に負けて白状した。 >> index (C)siwasu 2012.03.21 |