| 魔王様と新婚旅行１３ 「さっき南の国は海の先って言ってたが、東と西は大陸がくっついてるのか？」 「はい、海で隔たれているのは南のみで、北と東、西は同じ大きな大陸となっております。と言っても北は地形上やや独立した大陸とも言えますが」 「なるほど、大体わかった。つまり今まで聞いた話をまとめると、今回は西を中心に東にもちょっとお邪魔するぜー的なルートなんだな」 南は海を渡らなければならないが船を使うとは聞いていないし、北はシャーロッテの話を聞く限り血気盛んな国のようだ。ジークがそんな場所に俺を連れていくはずないし、この旅の話が出た時人間の領土をメインにって言ってたような気がするので、大方このまま東に進んで東西の人間の領土を回るのだろう。 「その通りです」 そう言ってシャーロッテは魔王城からグラエまで来た道のりをペンで記すと、そのままヨヌ川を南に伝い円を描く。なるほど、ここが言ってたもふもふチャンスか。そしてペンはそこから東へと進み、人間の領土の中央部分、城が描かれたところで止まる。そしてその周囲や森を小さな円で囲うと、ペンは更に東へと進んで紙の端で止まった。 「一先ず西での動きはこのような形となります。その後東の国へ進みながらサーヴァ様の城を目指し、一周する形で城に戻る予定です。ただ、西と違い東の国は魔族に対しての敵意が強いので、ほとんど突っ切るだけになると思います」 「むしろここがあまりにも敵意が無さすぎるだけだと思うが」 確か王様が魔王に子守頼むとか言ってなかったか。 そう言えば、アネリとロジとシャーロッテが遠い目をしながら明後日の方を向いた。 なるほど、これ以上はジークのためにも何も聞くまい。 話を戻したいのか、アネリは咳払いをすると地図に向き直った。 「元々ジーク様の領地内であったヨヌ川を共有したことで人間側が得られた利益は大きいですからね。多少の恐怖や憎悪はあっても、他の国と比べれば微々たるものです。とはいえ、私たちはやはり魔族なので人間を食す種族が存在している以上、諍いがないとは言えません」 なるほどなあ。だからこういった変装も必要なのか。 頷いていると、いい加減天井から覗きこんでいるのが疲れてきたのか、ロジが降りてきた。そして俺の髪をひと房摘まむと、顔を覗き込んでくる。 「ちなみにカイチョーの場合はこれ、見られると人間どころか一部の魔族さんにも敵意を向けられたり生贄として腸裂かれたり剥製にされたり娶られたりするから気を付けてね〜」 「魔族はそういうの気にしないんじゃないのか」 「普通はね。でもたまに変な邪教にハマってるのもいるからなあ」 「んだよそれ面倒臭え」 あからさまに眉をしかめると、ロジがケラケラと笑うので脛を蹴っておいた。 「ちなみにお前、これどうにか出来ねえのか」 「ムリムリ、一般的な染色でも黒から他の色は変えようがないんだよねえ。変色も魔力の中じゃ特異的なスキルで魔王様ぐらいのレベルじゃないと使えないし、常に魔力を注ぎ続けなきゃいけない上に黒は特に魔力の消費量が半端ないから不可能ではないけど現実的に厳しいかな」 この世界、黒という色に対しての難易度半端なさすぎだろ。 いや、それだけその黒を象徴をする神王がすげえってことなのか。 ……待てよ。 「おいロジ、お前あっちの世界から髪染めスプレー買ってこい」 「流石カイチョー。この世界に嫁入りしておきながら理をガン無視出来るなんて神経図太すぎるでしょ」 「いいんだよ、そういうファンタジーのお約束とかロマンとか。ここで平穏に生きるためならフラグなんてクソくらえだ。自己防衛大事。使えるもんは何でも使ってやる」 考えてみれば元の世界との間を行き来出来るロジがいるんだから元の世界にごまんとある髪染めスプレーを持ってきてもらえばよかったんだ。何故もっと早く気付かなかったんだ。 >> index (C)siwasu 2012.03.21 |