魔王様と新婚旅行12



 渡された地図は世界地図ではなく、西の国の地図だった。突然世界地図なんてものを渡されてもどうしようもなかったので有難い。
 俺はまず一番目印になりそうなヨヌ川を探す。……あった。他の国まで続いているらしい、一本の大きな川は西の国を丁度縦に半分で割ったような形になっている。ヨヌの文字を見つけた俺は、そのまま視線をあげて上流に書かれた文字に首をかしげた。

「これ、一本の川なのにエリアごとに名前が違うのか」
「領土ごとに管理されていますので、紛らわしくないよう名称を変えているのです。本来この川自身の名はヨルムン川という名前だったのですが」
「じゃあこのヨヌってところが今俺たちのいるグラエ?で合ってるんだよな」
「はい」

 グラエと書かれた門の絵が描いてある場所を指すとアネリが嬉しそうに微笑む。
 なんだその頑張ってる幼児を見る目は。
 確かに知識は幼児並みだと思うが。視線が気になりつつも俺は地図の上に置いた指を下へと滑らせる。

「グラエから南にこういって、森に入る手前までになるのか」
「そうですね、地図にはありませんが南の森を抜けると一度海に出ます。その先が南の国となるので、結界の境目に近いことから近寄ることはオススメしません」
「俺がんな面倒なとこ行くかよ」

 魔王城を出て分かったことは魔王城万歳ってことだ。用事を済ませてジークの怪我が治ればさっさと城に帰りたいし、ピグモとアラモにも会いたい。つかピグモとアラモに会いたい。
 天井を見つめながら二匹は今頃どうしているのだろうかと考える。ガミガミドラゴンにいびられてたりしねえかな。
 その横では、アネリがどこまで説明するべきか悩んでいるようだった。世界は広い。きっと話すこと、話せること、知っておいて欲しいことは積み重ねてきた歴史の分山のようにあるのだろう。
 唸るアネリに、シャーロッテが大きな欠伸を噛み殺す。

「ねえアネリ、奥さんが冒険心あふれるヤンチャな人じゃないならあまり気にする必要もないんじゃないの」
「ええ、まあ、そうなんですけど。最低限のお話ぐらいはと思ったんですが、どこまでが最低限なのか分からなくなってきてしまって」
「ああ、それめっちゃ分かる」

 ロジが俺より後に生徒会入りした時、どこまで説明するか悩んで結局面倒だから勝手に調べろって投げたんだっけ。
 前任が病気で休学したから引き継ぎも出来ない状態だったので、ロジも色々聞きながら必死に覚えてたな、懐かしい。
 俺の頭の中を覗いたのか、同じことを思い出したのか。ロジがため息をついて手を振った。

「アネリさんはそうやって頑張って教えようって気持ちがあるだけ偉いよ〜、うちのカイチョーなんか最後は逆ギレして自分で考える頭も持ってねえのかって怒鳴ってきたもん」
「あれはお前の質問攻撃があまりにも五月蠅かったからだ、トイレまでついてきて尋ねられたら普通キレるぞ」

 しかも個室の方だ。クソぐらいゆっくりさせて欲しかった。
 アネリはしばらく考えた後、ようやくまとまったのか顔を上げて頷いた。

「では、今回のルートとその近辺だけでも最初にお伝えしておきますね」
「そうしてくれ」

 アネリはテーブルを部屋の中央に動かすと、そこに俺が持っていた地図を広げる。そしてエプロンの内ポケットからペンを取り出すと、何もない森の中にペン先を乗せた。

「これは人間が作った地図ですので魔王城のことは載っていませんが、ここがジーク様やユーリ様が過ごされる魔王城の場所となります」
「こんな端の方なのか」

 西の国はほとんどが森に覆われている。この森こそが国全体の結界なのだそうだが、その中でも西側がジークの領地、東側が人間たちの領地となっている。その西側の更に西へ行ったところが魔王城なんだと。
 ちなみに更に西へ行くと東に繋がるらしく、そこでは東寄りに領地を持つサーヴァの城があるらしい。
 なるほど、この世界は一応地球みたいに球体になっているんだな。つまりサーヴァとはご近所さんみたいなものなのか。



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(C)siwasu 2012.03.21


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