生徒会長の嫁入り3



「っ、く」
「何で泣いてんだ…っ!」
「お、おま、お前、が…面倒臭いとか…」
「泣・く・な!あとケツから手ぇ離せ!!」

 魔王様…うん、もう魔王様は俺が急に怒鳴り出した事に驚いたのだろう。すんなりと手を離してくれたので即座に起き上がると呆けてる顔にビシリと指を突き付けた。

「いいか、俺は面倒臭い事が大嫌いだ。その中でも一番面倒臭いのが授業だ。そして死ぬほど面倒臭いのが…泣く奴だ」
「わ、私のことが…嫌い、なのか…っ」
「あー!だからうぜぇ!泣くな!」
「っ」

 魔王様は驚きつつも涙が止まる気配はない。
 俺はそれを見て溜め息を吐きながら髪を掻き上げた。くそ、まさか俺よりもデカいこいつが泣き虫だとは思わなかった。

「…3秒以内に泣きやめばヨメにでも何でもなってやる」
「っ本当か!」
「…さーん、にー」

 返事の代わりにカウントダウンを始めてやれば慌てて目を服で拭う魔王様。目が腫れるぞとかそんな優しさ、生憎俺は持ち合わせちゃいない。

「いーち、」
「止まったぞ!」
「…」

 折角の綺麗な金色の目は真っ赤に染まってしまって台無しだ。それでも嬉しそうな顔を向けてくる魔王様を見て俺は何度目になるか分からない溜め息をついた。

「本当に俺でいいのか?」
「よい!」

 潔い程の即答だな、おい。
 まぁ元々死ぬ気だった訳だし、しかも俺を捨てれば魔王様が死ぬ訳だし。あと改めて見ればこいつかなりの美形だし。
 期待に満ちた魔王様の目を見てみる。…面倒臭いがまぁいいか。

「俺がヨメになる以上絶対泣くなよ」
「泣かん!」
「面倒臭いと思った事は絶対しないからな」
「お前は好きな事だけしてればよい!」
「俺セックスは基本マグロだけど」
「私が頑張れば済む話だ!」

 くそ、モグラもどきめ一緒になって魔王様の横に並ぶな。うっかり魔王様まで可愛く見えてきたじゃねーか。

「あー…じゃあよろしく、魔王さん」
「何故私が魔王だと分かった!?」
「え、そこ食いつくの?面倒臭ぇからとりあえずさっさと連れて帰れ。最近寝不足続きだからちょっと仮眠とりたいんだよ」
「え?あ、はい」

 俺の言葉に肩身狭く立ち上がる魔王様が面白くて思わず笑ったら何故か頬を染められた。よく分かんない奴だ。

「藤堂悠里(とうどう ゆうり)だ、悠里が名前」
「ユーリ?短いが素敵な名だ」

 そういえば自己紹介もまだだった。お互い名前も知らない相手と生涯を共にするしないを口論してたとか今考えればおかしな話である。

「私はジークハルド・バーンハート・フィリ・エイドリアン…」
「待て待て待て待て待て。長いのは面倒臭い。短くしろ」
「む。…ジークでよい。ユーリと似ている」
「ああ、はいはい、ジークね」

 魔王様改めジークに俺は手を差し出した。まさか引き出しから異世界にやってきて魔王の嫁になるとは青い猫型ロボットもビックリだ。
 けれど俺はこの男だったらまあいいかと思い始めてしまっていたので

「不束な嫁だが死ぬまでちゃんと面倒みろよ」

 と、親衛隊から「これ以上失神者を増やさないで下さい!」と怒られて以来封印していた極上の笑顔付きで挨拶した。
 ら、盛られたので問答無用で股間を蹴り上げてやった。

 …ところでさっきからこっちを見つめているモグラもどきは連れて帰ってはいけないのだろうか。



end.



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(C)siwasu 2012.03.21


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