生徒会長の嫁入り2



「こ、こんな人間がこの世界に存在していたとは…」

 この世界の人間じゃねーし。
 そうツッコミたかったが口を開く前に顔を上げた魔王様に手で塞がれた。つーか手を口に突っ込んできやがった。

「舌を噛むな!」
「はまへーよ」

 会話すんのが面倒になってきたな…。そう思い眉を寄せると、魔王様っぽい人は泣きそうな顔をしていた。さっき食うって言ってたのはお前じゃねーか。

「…行く当てがないなら私の奴隷にしてやる」
「嫌に決まってんだろ」

 手を抜いてくれたおそらく魔王様は俺を食べるのはやめたらしい。いや、だからって奴隷はないだろ。そして何故驚く。

「何故だ!?」
「え、だって奴隷ってご主人様の言う事聞かなきゃいけねーんだろ、面倒臭い」
「ぬ…なら召使いはどうだ?」
「仕えてる相手を世話するの面倒臭い」
「ペットなら…」
「愛想振るの面倒臭い。却下」

 もうここまで相手にしたならいいだろ。俺はいい加減多分魔王様であろう男の下から抜け出そうと腰を引いたが逃がさんとばかりにケツごと掴まれた。

「おい」

 咎めるが、そろそろ魔王様でいい気がしてきた男は一瞬固まるとそのまま体を遠慮なくベタベタと触ってくる。

「…ふむ」

 ついでにあちこちの匂いも嗅がれ、顔を品定めするように覗きこむと俯いてブツブツと呟きだした。一体何がしたいんだ。

「これなら、いや…」
「なんだよ」
「…愛人ならどうだ」

 考えた結果がそれとかアホか、こいつは。真面目な顔をしているが鼻息が荒くて少々気持ち悪い。

「却下」
「なっ」
「不倫?奥さんにバレたら面倒臭い」
「妻はおらん!」
「じゃあいつか出来るだろ」
「なら本妻はどうだ!」
「本妻ってことは後妻もいんの?大奥みたいなの無理。マジ面倒臭い」
「ぬうぅぅ」

 何故頭を抱える。それとなく断ってんの気付けよ。
 あといつの間にかケツをガッシリと掴んでいるこの手を離せ。

「…ヨメならどうだ」
「は?嫁?」
「ああ、ヨメなら唯一無二だぞ」
「あー…ちょっと待て、話が分からなくなってきた」

 愛人はともかく本妻と嫁の違いは何だ。頭を抱えて聞いてみれば、どうやらここでの嫁もとい「ヨメ」は決めてしまうとそれ以外と性交も浮気も出来ない、おまけに死ぬまで添い遂げなければいけない生涯においてそれはもう大事な相手らしい。ちなみに誓いを破ると死が訪れるとか何とか。

「つまりお前は俺をヨメにすると」
「そうだ。これ以上の位はもうないぞ」
「…却下」
「っっっな、何が気に食わんのだ!」
「ヨメになったらお前の飯とか俺が作るんじゃねーの?面倒臭い」
「安心しろ、専属のシェフがいる」
「掃除は?洗濯は?」
「メイドがいる」
「…セックスは?」
「…先程の説明を聞いていたか?私に我慢しろと?」
「いやー、んー…」

 元々いた学園がその辺りアレだった分気にはならないんだが。この魔王様で決定しつつある男だってなかなかの美形ではあるし。

「あー、うん、やっぱいいわ。お前だったらもっといいヨメ見つかるって。頑張れよ」
「お前がいいと言っているだろう…!」
「いや、もう死なないから。食っていいとか言わねーから」
「…それでもこんな辺境の森にいるからには行く当てがないのだろう?」
「あー、まぁ…」
「だから私がお前をヨメに迎えると…」
「あぁ、面倒臭ぇ」

 いや、だって俺のこと食うとか言ってた相手が急にヨメにするとか最早意地になってるだけなんじゃねーの?とか、思ってしまう訳で。

「面倒臭いのは嫌いなんだよ…」

 さて、どうするか。
 俺達の存在が気になるのか顔の周りをうろちょろするモグラもどきはいつの間にか2匹に増えていた。癒される。
 俺は現実逃避ついでに暫くその2匹の動きを眺めていたら、急に上から水が落ちてきた。ん、水?



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(C)siwasu 2012.03.21


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