魔王様と新婚旅行04



「噂をすれば来たな」

 ジークの声に俺は顔を上げると遠くから走ってくる二匹の動物を視界に入れた。
 大きな犬?いや、狼たちは俺の前で立ち止まると姿勢良く座って頭を下げる。

「ラゴーブルという優秀な闇と音の種族だ、今回の旅ではこやつらが護衛を務める」
「お、おぉ……!もふもふ……もふもふ……」

 ジークめ、気が効くじゃねぇか!ピグモやアラモやロジに比べるとちょっと毛質は硬そうだが十分俺のもふもふ基準を満たしている。これで旅の道中は寂しい思いをせずに済むと大きい方の頭を撫でようとしたが、歯をむき出して唸られてしまった。

「…………おい」
「護衛だと言ってるだろう、愛玩用ではない」


 半眼で訴えると、ジークはため息をついて首を振る。
 な、なんだと!じゃあ俺はこんなもふもふ二匹を目の前にして触れず見るだけしか出来ないのか!
 項垂れていると、狼の小さい方が俺に近付いて鼻をすり寄せて来た。

「奥様、私だったらいいよ。でも触れられてる間は音が聞き取りづらくなるから少しだけ、ね」

 お前が天使か!早速頭を差し出してくれたのでソッと撫でれば見た目よりは柔らかい感触に心が満たされる。

 どうやら佇まいや声の雰囲気から今撫でてる小さい方は雌で大きい方が雄らしい。小さい方は全身黒色の割に愛らしい見た目に対し、大きい灰色の方は威圧感がある。

「紹介が遅れました。私はラゴーブルのシャーロッテ、音はどちらかと言えば不得手だけど闇の中での強さならラゴーブルで一番よ。んで、あっちが……」
「ヴォルフラム」
「あのね、挨拶ぐらいもう少し愛想よくしなよ」
「ヴォルフラム……?」

 大きい方の灰色の狼――ヴォルフラムのそっけない態度にシャーロッテが呆れたように身体を竦める。俺はその名前に聞き覚えがあるような気がして記憶を辿り思い出した。

「あぁ、アラモが世話になってる」

 言葉に出すとヴォルフラムの耳が分かりやすく動く。以前ピグモとアラモがバラスを出て迷子になった時知り合ったらしいのだが、以来アラモはこいつに懐いたのか出かけて帰ってくるたびに「ヴォルフラムさんが」と楽しそうに話してくれていた。それに少し嫉妬しながらも外に出られない俺のために一生懸命話す可愛いアラモに頬を緩ませていたのだが……そうか、こいつが噂のヴォルフラムさんか。
 勝手に対抗心を燃やして睨んでいると、自己紹介が終わった二匹にジークは不思議そうな声をあげた。

「ヴェルディルムはどうした」
「それが三日前に子供産まれちゃってさ、ヴォルフラムが代打ってわけ」

 どうやらヴォルフラムは元々今回の旅の警護には関係なかったようだ。ジークは口に手を当てて少し考え事をしてから俺の方に顔を向けた。

「ユーリの話し相手にもなるよう賑やかな方がいいと陽気なシャーロッテとヴェルディルムを指名したのだが……ヴォルフラムは気難しい男だ、もしユーリが気に入らぬなら別の者を――」
「ああ、別にいいよ気にしねえから」

 こっちは撫でさせてくれるし。そうシャーロッテの耳の裏を掻けば気持ちよさそうに目を細めたので好きなところだったんだろう。

「今から他のやつ探すのも面倒臭えだろ、とっとと出発しようぜ。ここから動けないからそろそろ飽きてきたんだよな」

 そう言ってサークルを指すと、ジークはお前がいいのならとヴォルフラムとシャーロッテを下がらせた。前足で手を振るシャーロッテの可愛さに対し素っ気ないヴォルフラムの態度に思うところもあるがアラモが懐いているのだ、悪いやつではないのだろう。
 そうこうしてる間に準備が終わったのかユイスが近寄ってきてサークルを消すと早く馬車に乗るよう急かされた。使用人たちもバラスの前で一列に並んでいる。どうやら準備は終わったらしい、ジークがユイスと何か話している間に俺は聞こえる遠吠えに慌てて馬車に乗り込んだ。おそらく馬車の中もサークルと同じような効果があるのだろう、静かになった外の気配に一息ついて顔を上げると、目の前でちょこんと座っている使用人に気付く。いつも俺やピグモアラモの世話をしてくれるメイドだ。

「この旅でジーク様とユーリ様のお世話をさせていただくアネリです、よろしくお願いします」
「あんたも来るのか、結構大所帯なんだな」
「これでもジーク様の希望で少人数なんです、今回表向きジーク様は生き物を取り扱う商人となっていますので、人の姿をしているのは私とジーク様、ユーリ様、それに御者のみですが」
「ちょっと待て生き物ってことは他の馬車にもふもふがたくさん!?」
「残念ながらラゴーブル以外は爬虫類系でして……」
「そうか……」

 残念だ、もしもふもふ所帯なら迷わずそっちの馬車に乗っていたのに……。
 アネリ曰く、どうやら西は爬虫類系が多く毛の生えた生き物が少ないらしい。北では逆にもふもふ王国だと聞いていつかジークに連れて行ってもらおうと心に決めながら話を弾ませていると、のそりと金髪の男――じゃない、ジークが乗り込んできた。やっぱりこの外見は慣れない。見る度に誰だお前はと言ってしまいそうになる。

「それでは行こうかユーリ」
「あ「「ちょっと待ってー!!」」

 そう言って俺に微笑むジークの見た目に戸惑いながら頷こうとしたが、聞き覚えのある声に遮られて俺は窓を開けて外を覗いた。馬車に制止の声を上げてバラスから慌てて出てきた人型のピグモとアラモは、そのまま俺に向かって走るといつもの姿になって飛びついてくる。離れるのが寂しいと言わんばかりに腕の中で身体をすり寄せてくる二匹の愛らしさに俺は耐えきれずジークを見た。

「ダメです」

 が、無情にも俺と二匹は後ろから現れたガミガミドラゴンによって引き離されてしまう。首根っこを掴まれて手足をバタつかせる二匹に俺は声をあげようと口を開くが、その前にユイスが目配せで御者に出発を促した。馬が走り出して二匹の姿が遠くなっていく中、俺はユイスに向かって大声で叫ぶ。

「てめー覚えてろよクソドラゴン!」
「よい旅をー」

 冷めた視線でピグモを持ったまま腕を振るユイスの態度は邪魔な奴がいなくなってせいせいすると言いたげだ。俺はどうせどこかでふらっと現れるであろうロジにユイスをけしかけてやる決意をしながらとりあえず八つ当たりに横にいた金の髪を引っ張った。



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(C)siwasu 2012.03.21


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