魔王様と新婚旅行03



「そういやバラスの外って初めてだな」
「いいですか、絶対にここから動いてはいけませんよ」

 この魔王城に来た時は空を飛んだジークに直接バラスに降ろされた為、こうして自分の足で外に出るのは初めてだ。俺はユイスが作ったよく分からんサークルの中で辺りを見回す。
 バラスの入り口は慌ただしい雰囲気で、馬車が数台あったり使用人が行ったり来たりと忙しそうに動き回っている。なんか仰々しいな、と思ったがよく考えれば魔王が長期で外出するんだからそりゃ慌ただしくもなるか。
 見回りの人なのか、少し離れたところを歩いてる大きな亀に乗ったカエルのおっさんが俺を見て笑顔で頭を下げてきたので俺も軽く手を上げる。今のところ城では友好的な奴らしか見てないのだが、本当に俺に敵意を向けてる奴はいるんだろうか。もしかして俺のこと毛嫌いしてるのってユイス一人ってことは……有り得るな。
 そんなことをぼんやり考えていると後ろから肩を叩かれて振り返った。

「身支度は済んだのか?」
「ん?あ……どうも」

 俺より少し高い身長に明るい金髪を後ろでまとめて左目を髪で隠した穏やかな雰囲気の男に馴れ馴れしく声をかけられて首を傾げながら会釈する。
 結局俺はユイスが用意したゲームに出てくるモブみたいなシャツにズボンと大きめのローブを着ているのだが、それと似ているようで明らかに質のいい服を着た男に怪訝な視線を向けていると、男は暫くきょとんとした表情を見せた後笑って左手の薬指を掲げてみせた。そこにある俺と同じ紋様に目を見開く。

「ジークか!?」
「うるさいですよユーリ!静かに待てないのですか!?」

 離れたところから聞こえてくるガミガミドラゴンの声にいや、お前の方が声でけえよというツッコミも忘れるほど俺は金髪の男――ジークを指差して固まる。

「ユイスは今かなり気が立っているからな、なるべく静かにした方がいい」
「え、いや、お前なんでそんな……」

 いつものジークとは背丈も顔も全く違う見た目に開いた口が塞がらない。そんな俺を見て面白そうに微笑むジークは、軽く回って俺のいるサークルに入ってきた。

「これでも魔王だからな、いつもの姿で人間と遭遇すれば驚かれるし、何より勇者に見つかると面倒だ」
「そ、そっか……」

 信じられなくてジークの前髪をかき上げると左目にある青あざにようやく実感が湧く。ファンタジーな世界だし何でもありなのは分かるが、自分の旦那が別人のようになっているとどうにも落ち着かない。
 どう接していいのか分からずに困惑していると、準備が終わったのかユイスが近付いてきた。

「いいですか、ジーク様は新婚旅行と言ってますが本来の目的は未だ挨拶の済んでいない方々への訪問です。くれぐれも先方では粗相のないように」
「こら、本来の目的が新婚旅行と言ってるだろうに」
「ちょっと待ってくれ、今俺はかなり混乱してるから何言われても秒で忘れる自信がある」

 ジークの見た目は城の人間にとって珍しくないものなのか、いつも通りの振る舞いに俺は余計頭を抱える。え、俺こんな見た目のジークと今から長期で旅行するのか?慣れるか?慣れるのか??
 完全に固まった俺を見てユイスは溜め息を吐きながら金髪の男……じゃない、ジークに何やら紙を一枚渡した。受け取ったジークがサインすると、それは突然火に包まれる。

「っおい、危ねえだろ」

 真横で火が上がって思わず後ずさると、ジークの手の中で燃えつきた紙は指輪になってユイスに返された。それを不思議そうに見ていると、指輪を親指に嵌めたユイスが俺を馬鹿にしたように見下す。

「魔王代理として執行権の譲渡ですよ。今よりジーク様はいつもの半分以下の力しか出せませんので迷惑をかけないように」
「え、それってめちゃくちゃ弱くなるってことか?」

 聞くと、ドラゴンの顔に変わったユイスにガミガミと説教された。力が半減しても強いってのは分かった、分かったから怒るのは止めてくれ。幸先が悪くなる。項垂れていると、ジークが腰に手を回してきたので振り返って見上げる。…やっぱり違和感あるな。

「念の為護衛も付けているから心配する必要はない」
「いや、俺の心配は別のところにあるんだけど」

 勘違いしたジークに言えば、首を傾げられたので俺はなんでもないと頭を振った。



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(C)siwasu 2012.03.21


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