魔王様と新婚旅行02 眉間に皺を寄せて現れたユイスに、俺は内心冷や汗を垂らしながら固まった。 ユイスは、俺が一人でバルコニーに出ることを酷く嫌うのだ。 理由は、先程話していた人喰いさん達の業務に支障が出るせいだ。どうやら普段は温厚で頭のいい彼らは、ユイスの手伝いもしているらしい。俺の臭いを嗅ぐとその日ろくに仕事が進まないから、ユイスの怒りは…言わなくても分かるだろう。 だが、俺だって外の空気を吸いたいこともあるのだ。 「ユーリ、貴方……」 「い、いやロジもいるし…」 「そんな人間臭い虎までいたら余計に刺激を与えるだけでしょう!!」 あぁ、ガミガミドラゴンのガミガミ説教が始まった、面倒臭ぇ。 俺はトカゲみたいな顔をさせながら喚くユイスにうんざりしつつ、助け舟を求めようとロジを見下ろしたが、完全に俺のマッサージテクに酔いしれて膝の上でグッタリとしている。これは役に立ちそうにないな。 「ちょっと貴方も聞いてるんですか?!」 「ふにゃあぁぁぁ、俺はもうダメ〜」 ユイスの怒りの矛先はロジにも向けられたが、俺の膝の上でゴロゴロ言ってる虎は何も聞いちゃいない。 その姿がただの大きな猫にしか見えなくなった俺は、前足の付け根に手を突っ込んで思いっきり掻いてやった。予想通り、気持ち良さそうな顔を見せる虎がグルグル鳴いて喜んでいる。 「お前の大好きなガミガミドラゴンが呼んでるぞ〜いいのか〜」 「ふひぃ…か、カイチョー、もう勘弁…」 そう言いながらも仰向けになって腹を見せてくるロジは、虎というより最早ただの猫だった。 そう言えば長くこいつのモフモフを堪能してなかったな、と俺は晒された腹を撫でようと手を伸ばした瞬間、伸びた足に先手を打たれてしまう。 「聞、い、て、ま、す、か!」 「グエッ!あ、足!足どけて〜〜!」 ついに堪忍袋の尾が切れたらしいユイスが、ロジの腹の上に足を乗せて体重をかけているのを見ながら、とりあえず合掌しておいた。 お前、ユイスがいること完全に意識から飛んでただろう。 「で、ユーリは荷造りを終えたのですか?」 「おう、見ろよこの完璧な用意」 鬱憤は晴らされたのか、ロジの腹を蹴り潰していたユイスが今度は半眼でこちらを睨んでくるので、俺は自慢げにリビングに置いていた自分の荷物を指した。 ら、何故かユイスが頬を引攣らせた。 「な、んですか、この量は」 「長旅って言うから、とりあえず暇潰し用の携帯ゲーム機一式と、充電器と電池と一応向こうの料理が舌が合わなかった時用の携帯食と…」 「そういえばカイチョー、修学旅行の時も一番荷物多かったよね」 「肝心の衣類が全然ないじゃないですか!」 「えぇ…それはいらないだろ、そもそも服持ってねぇし」 毎回メイドさんが着替えを持ってきてくれるから、俺の収納されてる服なんてこっちに飛ばされた時の制服ぐらいしかないぞ。 そう言えば、ユイスは唇をわなわなと震わせながら、大きくため息を吐いて肩を落とした。 「もういいです。これは全て置いていきます。用意は私がしますから」 「はぁっ?!ゲームないとすることねぇじゃねぇか!」 「貴方は今回何しに行くと思ってるのですか!!」 「そういや自称旅行好きの割には修学旅行中もカイチョーって自由行動は引きこもってたね…」 それは新鮮な場所でダラダラするのが楽しいからじゃねぇか。 観光とか人混みとかは面倒臭いしそもそも歩くのがダルい。 そんな話をしつつ、ついロジと去年の修学旅行の話に盛り上がってたら、ユイスが無言で俺たちを部屋から追い出した。 あいつ、本当に全部置いてく気だな。 >> index (C)siwasu 2012.03.21 |