魔王様と新婚旅行01



 学園で一人生徒会業務を押し付けられる羽目になった挙句、全部嫌になって死のうとしたら、異世界に飛んで魔王に嫁入りした経験がある奴はいるか?いたら是非友達になってくれ。なんだかんだ言っても、人外ばかりに囲まれてると人間が恋しくなってくるんだ。

「よし、こんなもんか」

 ジークの所に嫁入りしてから、もしかしたら残りの人生はずっと城の中で過ごすんじゃないかと少し不安があった俺は、正直今回の旅行にワクワクしていた。
 いくらインドア派の俺でも、引きこもってばかりじゃ息がつまる。
 魔族に比べれば赤子同然の俺みたいな人間は、ジークが生活をしているバラスから出ることも出来ないので、動けるのも精々この建物の中だけだし。おかげで、以前ピグモ達が行方不明になった時は探しにも行けず、珍しくジークを八つ当たりで怒鳴りつけたこともあったな。
 けれど頑なに外に出ることを反対したのは、それほど俺にとって危険なのだ、この城に住む魔族たちが。
 まぁこんだけ広い城なら、いくら魔王城とは言えジークが完全に把握できてないところもあるのだろう。
 俺だって生徒会長やってた時は、あのクソ面倒臭い転入生のやらかす数々の面倒ごとを把握しきれず、後始末させられてたもんな。
 あ、やめよう。思い出したらムカついてきた。イライラすんのも面倒臭ぇ。
 そういえばジークに城に連れてこられてから、草花にすら触ってないよな。来た時はよく分からん森だったのに。
 俺はバルコニーに出ると、先で一面広がる森を眺めた。
 この森を越えた先にロジと昼寝した丘があって、更にその先に大きな川があって、川を渡って山一つ越えた先に人間の住む領地が見えてくるんだっけか。
 …ここ魔王城なんだから当たり前なんだけどやっぱ遠いな。移動面倒臭いからやっぱ旅行いらないかもしれない。
 この先の長旅を想像して既に疲れてきた俺は、そのままバルコニーの椅子に座って突っ伏した。

「人恋しい…でも移動面倒臭い…人間がこっちに来い」
「無茶言わないでよ」

 独り言でぼやいていると、呆れたツッコミが聞こえてきて、俺は振り返ると当たり前のようにいるロジを半眼で見つめた。

「せめてお前が会計の姿なら…いや、やっぱ色々思い出してムカつきそうだしモフモフ惜しいからそのままでいいわ。尻尾寄越せ」
「もー、魔王様に見られて拗ねられても知らないよ〜」
「お前が動けないのはまだしもピグモとアラモまで留守番なんだぞ、旅行中俺の癒しが無いんだぞ、せめて充電するぐらいいいだろ」
「俺は別に構わないけどそれ魔王様に言ってね」

 そう溜め息をつきながらも虎の姿になって擦り寄ってくれるロジを、俺は躊躇なく抱き締める。
 うむ、いい毛並みだ…。

「基本的に城で人間の臭いさせると、ユイスちゃんが臭いって怒る上に人喰い系の魔族さん達が血気盛んになっちゃうからね〜」
「おかげで俺がジーク無しでバルコニーに出た時のお供はその人喰い系とやらの遠吠え付きだ」

 そんなことを言ってると、俺の臭いが風に流されて辿り着いたのか、離れたところから遠吠えというかむしろ悲鳴が聞こえ始めた。
 たまに我慢出来ない若いのが理性を失ってバラスの周りをウロつくが、ジークの魔力のおかげで侵入してくることはない。

「最近俺を食いたいのに食えない鬱憤で叫んでるこの声が心地よくてな…はっはっはっ、魔族どもよ存分に悶えるがいい」
「カイチョーって本当こっちに来てもカイチョーだよね。魔王様よりも魔王様らしいというか…」

 バルコニーで椅子に座って虎を撫でてる姿は、魔王というよりもどっかの石油王みたいな感じもするが。
 俺はそのまま背中を撫でてなんだかリッチな気分を味わっていると、ロジが甘えるように膝に頭を乗せてくるので、喉と耳の後ろを掻いてやった。すると、気持ち良さそうにゴロゴロいいながら腕も乗せてきたから、ついでに肉球を堪能させていただく。

「はぁん、だめぇ、カイチョーの手、気持ちいい〜」
「よし、ここがいいのか?それともここか?」
「どっちも好きぃ…ッ」

 俺のマッサージテクに酔いしれて、すっかり耳も尻尾も落としたまま力を抜いているロジに、そういえばこいつなんで来たんだろうとふと我にかえる。
 勝手に部屋に入ってくるが、用もなく訪れることはない(というかそれをするとジークが死ぬほどうるさい)んだが。

「なぁ、お前そういや何しにーー」
「ロジ!貴方ユーリの荷物運びにどれだけ時間をかける気ですか!!」
「あ」

 うん、何の用か分かったわ。



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(C)siwasu 2012.03.21


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