生徒会長の嫁入り1



 タイムトラベルだとかファンタジーな異世界トリップだとか異世界に召喚だとかそういう話は小説なり漫画なり映画なりごまんと存在しているし、かくいう俺もデロリアンに乗ってタイムスリップするあの映画が大好きだ。子供の頃飽きるまで見ていた記憶がある。
 しかし実際それが自分の身に起こるなどと誰が思うだろうか。

「どこだここは」

 見渡す限り木、木、木とついでに無造作に生えている草と花。目の前で飛んでいる見た事もないような虫やピンク色をした草を見る限り、どうやら幻想的な世界に迷い込んだようだ。もしくは想像も出来ないような過去か。恐竜とか出たら一発で終わりだ。

「めんどくせー…」

 あぁ、本当に面倒臭い。
 俺は自分で言うのも何だが面倒臭い事が一番嫌いな男だ。面倒臭い学校でこれまた面倒臭い生徒会長職なんかに就いて一番面倒臭い授業免除の為仕方なく仕事をしていたというのに、一か月前面倒臭い転入生が現れて面倒臭い事に生徒会メンバーがそいつに構って仕事放棄し始めて俺もついでにサボりたかったが「責任は必ず果たすものだ」という面倒臭い家訓の影響のせいか面倒臭いあいつらの仕事を全部こなしていた。
 けれどもう何もかもが面倒臭くなってしまって息するのも面倒臭くなってあ、じゃあ死ねばいいじゃんとか思って使えそうな道具を探す為デスクの引き出しを漁ってたら、何故かサイドキャビネットの上から2段目が異世界への入り口だった。まじでか。

「どうやって帰んだよ…」

 右を見ても左も見ても下を見ても上を見ても元の世界に帰れそうなものはない。そういえば青い猫型ロボットはどうやって帰ってたっけ。
 気になりだしたら止まらなくなってきたので魔界大冒険の内容を思い出しながら胡坐をかいて唸っていると、後ろから物音が聞こえてきた。

「ん?」

 振り返るとデカい人。綺麗な顔をしているが多分男だろう。つーか差別と言われようが180cmある俺を超えているであろう身長は俺の中では女と認めない。

「…何故人間がここにいる」

 低く威嚇するような声。よし、こいつは男。決定。
 言葉が通じる事にホッとしつつ男の身なりや雰囲気を見るからに、どうやらここはファンタジーの世界らしい。長い髪に頭から出てる角にマントが定番の魔王の格好すぎて俺はつい笑みが漏れてしまった。

「何を笑っている!!!」

 うお、怒鳴り声で周囲に突風が巻き起こったぞ。
 そう驚いていると気付けば魔王っぽい男に押し倒されている俺。頭の横でモグラみたいな生物が歩いている。なんか可愛いな。

「…無視するか。いいだろう、貴様は私が直接食ろうてやる」
「食べんのか?」
「ハッ、何だ今更命乞いでも…」
「お腹壊すぞ?」
「あ?」

 いや、一応魔王様?なんだからそんな間抜けな顔をしちゃいかんだろう。
 口をポカンと開けて俺を見つめる金色の目をじっくり眺めながら考えた。

「せめて火は通した方が…」
「は?」
「…いや、でもこっちの世界は胃が強いのか?」
「おい、何を言って…」
「ああ、悪ぃ。大丈夫なら構わねーよ、どうぞ」

 よく考えたら俺、死ぬつもりだったんだし。食べてくれるなら自殺よりかは崇高な死に方じゃね?仏陀様もオッケーしてくれるよ、きっと。
 そう思って両手を広げたら何故かガッシリと肩を強く掴まれた。

「命乞いぐらいせんか!」
「えぇー…いいよ、面倒臭ぇ」
「そうやって自分の命を粗末にするな、親が泣くぞ!」

 え、何この魔王様らしき人説教すんの?相当面倒臭い奴だな。

「えー。アッサジだって漫画では狼に食われてたじゃねーか」
「誰だそれは!」
「もういいからさ、早く食えって」

 面倒臭ぇ。そう思って溜め息をつくと、魔王様みたいな男は肩を震わせながら俯いた。



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(C)siwasu 2012.03.21


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