会長と危険なアレ9 「つまりジークのこの傷は俺がやったと?」 話を聞いて信じがたい事実に確認すれば、ジークとロジが頷く。思えばこいつと一夜の過ちがあった時も翌朝今のジークのように縮こまって俺を見るなり逃げてたな…。 あの時は俺を抱いた件がカナメにバレる未来に恐怖して逃亡したのだと思っていたが、どうやら違ったようだ。 「いや、そう言われてもなぁ…覚えてねえし」 首を傾げて頭を掻きつつ、昨夜のことを思い出そうとしても飯とワインが美味かったことぐらいしか覚えてない。 本当に俺がやったのだろうかと唸っていると、ようやく落ち着いてきたジークがユイスの治療を受けながらぽつぽつと話し出す。 「最初は強引だが淫靡なユーリに気を良くしていたのだが、段々と噛み癖が強くなってきて流石にもう出ないと言えばヤらせろと脅してくるし最後は殴られるし……何度も嫌だと言ったのに…うぅっ」 思い出してまだ涙腺が緩んだのか涙を浮かべるジークに「泣くなよ」と念を押しながらも、完全に俺が悪いので声も無意識に小さくなる。 ロジはそんなジークの様子に何か気付いたのか、ハッと俺とジークを交互に見て声を戦慄かせた。部屋が突然金縛りにでもあったような緊張に包まれる。 ま、まさか…いやそんなことはないと思いたいが。 「ま、魔王様まさか…」 「最終的にはずっと上に乗ったまま人の尻尾を噛みながら精気を貪っておったわ」 「あ、良かった掘られちゃったのかと」 緊張の空気が緩んで全員が同時に息をつく。いや、正直俺が自分よりもでかいジークを…なんて想像出来ないし、したくないから助かった。 あと一番怖い顔をしていたユイスの安堵した表情を見る限り、何もなくて本当に良かった。 「魔王様を無理矢理雌扱いなどしてみなさい、東の魔物全てが貴方の臓物を食い尽くしますよ」 「怖いこと言うなよ……」 やっぱりそうか。 俺を睨みつけるユイスに、今の状況すら魔物界的にはよろしくないことなのだと視線で告げられて明後日の方を向く。 そりゃ一応こんな奴でも魔王様だし見える傷なんか作れば問題にもなるよなぁ…あぁ、なんでこんなことしたんだ昨夜の俺。面倒臭い。 「しかし淫魔の血が混ざった母上を持つジーク様が貪られるなんて…」 「おい、その話初耳だぞ…おい、初耳だぞ」 若干反省しつつうな垂れていた俺だったが、さりげなく呟いたユイスの発言に思わず顔を上げて二度見した。 その辺り今後の為にもちゃんと話を聞きたいところだが――今は聞ける状況じゃないので後にしよう。 「正直酔ったカイチョーは淫魔よりもタチ悪いよ」 「お前も言いたい放題だな。俺も一応全身筋肉痛になってんだぞ」 さっきからユイスとロジでジークの治療を行う中、俺はというとユイスに呼び出されたピグモとアラモによって針治療をしてもらっていた。さも全面的に俺が悪いと言わんばかりに責められているが、ジークだって最初は楽しんでたって言ってたじゃねえか。 「いや、でもどう見ても魔王様の方が心も身体も傷が深いし」 「ぐう」 後ろの二匹にまで頷かれてしまえばもうそれ以上何も言えない。俺は諦めてその後も続くユイスと小言を受け入れるしかなかった。 >> index (C)siwasu 2012.03.21 |