会長と危険なアレ8



 カーテンの隙間から入り込む朝日に覚醒させられた俺は、意識を浮上させてまず自分のきしむ身体に指先を奮わせた。

「ぐうぅぅぅ…い、いてぇ…」

 痛い、全身どこもかしこも痛い。特に下半身が完全に動かない。何だこれは。

「ぐうぅぅぅ…うう…」

 どうにか四つん這いになりながら身体を起こして、自分の痛みの理由を探る。同時に、隣にいるであろう犯人を睨みつけた。

「う、うぅぅ…ユーリ…もう無理だ…」

 が、隣にいたのは身体を芋虫のように丸めて半泣きでうなされるジークで、俺は思わず怪訝な顔で苦しそうにしている顔を軽くはたく。
 何故か顔中引っかき傷だらけだし肩は噛み跡で内出血しているんだが…何があったら魔王をここまでボロボロの姿に出来るんだ。

「おい、おいジーク起きろって」

 寝起きの時よりは幾分か動かしやすくなった身体を近づけてなかなか起きないジークの肩を揺する。目覚めが悪かったことなど一度もないので(というか起きるのは俺の方がいつも遅い)珍しいな、と思いつつ何度か揺すっているとようやく眉間に皺を寄せた顔がゆっくりと目を開けて俺を見た。

「ひぃっ」
「人の顔見て悲鳴上げるなよ、失礼な奴だな」

 身体を震わせながらシーツで身を包みベッドの隅に逃げるジークに俺は思わず半眼になる。
 こうしてもう一度見ると、ジークは本当に満身創痍といった姿だった。影になって気付かなかったが左目が痣になってるし、小さくたたんだ羽も心なしか萎れてる気がする。尻尾は傷だらけだし。
 本当に何があったんだ?
 思い出そうとするが、昨日はジークと豪華な食事に少しのワインを嗜んだだけでその後の記憶はない。自分の身体の倦怠感からヤることはヤったみたいだが、それで何でこいつがこんな姿になってんだ。

「なぁ、昨日は――」
「っっっ、お、お前は二度と酒を飲むな…!!!」
「はぁ?」

 突然の命令口調に俺は思わず眉を顰める。いや、それとこれと何の関係があるというんだ。
 若干イラッとしつつ文句でも言ってやろうと口を開いたところで、勢い良く扉が開いて怒りのオーラを纏うユイスが飛び込んできた。

「おはようございます二人とも!いつまで寝てる気です、か…って何ですその姿は!」
「ユ、ユイス!」

 ユイスはジークの姿を見て目を丸くさせると、慌てて傍に駆け寄る。ジークも縋るようにユイスの胸に飛び込んで泣く――のだけは我慢してるようだが目に涙が溢れていた。
 ユイスは、ジークの身体を確認しながら眉を寄せて怒りを抑えるように低い唸り声をあげる。

「同じところを何度も抉るように…よりにもよって魔王様にこのような非道な真似をする者がいようとは…」
「昨日何かあったのか?」

 守れなかった悔しさかは分からないが唇をかみ締めて震えるジークの頭を撫でるユイスに俺は首を傾げて聞くと、不思議そうな表情を見せるユイスが俺を睨んできた。

「何かって昨日はジーク様と二人で過ごされていたのでしょう?貴方の方がこの状況を知ってると思ったのですが」

 いや、だって覚えてないし。
 俺は魔王の癖に側近の腕の中で震えてるジークに呆れつつも昨晩の記憶を必死に手繰り寄せていると、頭上からガタガタと物音が聞こえて天井を見上げた。
 引き出しを開いたロジが、顔をこちらに覗かせて手を振っている。

「ユイスちゃんおっはー!」
「ロジ!仮にもここは魔王様の部屋です、許可なく侵入すれば貴方とて容赦はしませんよ」
「別にいいじゃん細かいことは気にしない〜」

 ひらりと地面に降りて獣人の姿になるロジに、驚いたユイスが声を荒げるが笑いながら誤魔化されてしまう。まぁこいつユイスが知らないところでちょくちょく侵入してるからな。
 そしてジークの様子を見て全てを悟ったような表情を見せたロジは、そっと傷だらけの肩に手を置いた。

「あぁ、やっぱり魔王様もあのカイチョーに虐められたんだね……」
「この傷はユーリが!?」
「意味わかんねえ…」

 死んだ目で微笑を浮かべるロジに、小さく頷くジークと目を丸くさせるユイス。心当たりなんてさっぱりない俺は、今から聞く説明にガミガミドラゴンの説教が待っている予感がして小さく面倒臭ぇ、と呟いた。



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(C)siwasu 2012.03.21


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