会長と危険なアレ3 さていざ帰るか、と思っても数日顔を合わせてないと気まずくもあるわけで。 「うーむ……」 部屋の前で唸ること十五分。謝ればいいのか何食わぬ顔でいればいいのか一層逆ギレすればいいのかと考えていると、自分たちで風呂を済ませてきたらしいピグモとアラモが俺に気付いて裾を引っ張ってきた。 そういえば遠慮してたのかこいつらも俺に近寄らなかったからあんまりモフモフ出来てなかったな。よし、モフろう。 「いてっ」 が、抱きしめて毛並みを堪能しようとしたら小さな前足で鼻頭を叩かれてしまった。扉を指して訴えてくるアラモを見て、そういえば部屋の前でこんなことをしてる場合じゃないと思い出す。 「喧嘩とか面倒臭ぇ……いや、そもそもこれ喧嘩なのか?」 面倒だからと親密になるような相手を作らなかったので、こういったややこしい状況はどうしていいか分からず足踏みしてしまう。 そんな心情に気付いたのか、ピグモとアラモは俺の手から滑り降りると勝手に扉をノックした。慌てたような足音が向こう側から聞こえてきて喉の奥がぐう、と鳴る。 「お前ら……覚えてろよ」 しらばっくれるように首を傾げる兄弟は、俺の言葉に慌てて別室へと逃亡してしまった。あいつらは何も悪くないのだが八つ当たりしたい気持ちがおさまらないので、今度悲鳴をあげるまでモフり続けてやろう。 「ユーリ!」 大きな声と同時に扉が勢いよく開く。俺の姿を見て泣きそうなジークに気まずさを感じながらただいま、と呟けば何故か笑顔で受け入れてくれた。本当に怒ってないのだろうかと顔色を伺うがむしろ挙動不審で思わず眉を顰める。 「何うろうろしてんだ」 「うっ、うろうろなどしてないぞ!」 言いながら前でくるくる回るジークに怪しさを感じるが、今回諸々悪いのは俺の方なのでさっさと頭を下げて謝った。 「家出してすまん」 「わ、私の方こそ怒って悪かった」 が、なんか逆に謝られて調子が狂う。背中がむず痒い気持ちになりながらもさて次はどうしたものかと気まずさを感じていると、空気を読んだように腹の音が鳴った。 「そういえば結局今日はおやつしか食ってねぇんだった……」 「ふふふ、そうかと思って夕食を用意しているぞ、ユーリの好きなものばかりだ」 腕を組み得意げに笑みを浮かべるジークをすり抜けてテーブルを見れば確かに俺の好きなものばかりが並んでいる。 いつもならユイスが好き嫌いするなとかバランスのいい食事をとかうるさいのに珍しい。……いや、あいつもさっさと俺に戻ってほしいと思ってるのだろう。毎日ベッド貸してくれる割に嫌な顔してたし起きたら人間臭いとか言ってシーツ交換してたもんな。それで図々しく居座ってた俺も俺だが。 「そうだな、なんか疲れたし今日は飯食ってさっさと寝るか」 「ねっ、寝るのか?」 「いや、だって今日はそういう気分じゃねえし」 がっかりした顔を見せるジークを見てると申し訳ない気持ちになるが、出来れば今日は風呂入ってゆっくり寝たいと思ってるわけで。 「明日でいいだろ、明日で」 「む、むう……」 納得したような納得してないようなジークが首を傾げながら俺に続いて席に座ると仕方なく食事に手を付け始める。 今日はどれから食べても好物ばかりだから逆に困るな、と贅沢な悩みを覚えながら行儀悪く肉にフォークを刺しているとグラスに注がれた色に俺は首を傾げた。 「水じゃねーの?」 「先日国王からワインを譲ってもらったのだ」 「俺未成年なんだけど」 ジト目で注がれるグラスを見つめながら答えると「みせいねん?」と返されたので子供ってことだ、と教える。 「人間は16過ぎれば大人だと聞いたが」 「この世界ではな」 「酒は嫌いか?」 「嫌いじゃねーけど……なんかイマイチいい思い出がないんだよなぁ」 向こうの世界で正月に飲まされたこともあるが、次の日親戚から口を揃えて酒を飲むなと言われたので成人するまでわざわざ飲むものでもないな、とは思っていた。というよりあの日何人か顔が腫れていたが、聞くのが怖くて従うようにしている。 「ここでは合法だぞ?」 「でもなぁ」 グラスを持って傾けてみる。赤い色が綺麗だなぁ、なんて見つめていたら独特のアルコール臭に酔いそうになった。 「今もくらくらしてきてるし元々酒が弱いと思うんだよなぁ」 「しかし一生飲まない訳にもいかぬだろう」 「だよなぁ……やっぱそうだよなぁ」 立場上そんな気はしていたので合法ならば飲み慣れておいてもいいかもしれない。どの程度の量で限界がくるのかも知りたいしな、とグラスに口を付ける。 アルコールは苦いというイメージの通り多少の慣れない苦さが広がるが、同時に苦みを忘れるような香りと味に一口だけのつもりが思わず行儀悪く飲みきってしまった。 「う、美味い……」 「自慢の品だそうだ」 高そうな味がする。というか実際国王からもらった程のものだ、高いのだろう。 ジークがボトルを差し出してくるので気付けばグラスを伸ばしていた。透明から赤に変わる色にまた口を付ければ気に入ったことを喜んでいるのかジークが喉で笑う。 「仲直りの乾杯をするつもりだったのだが」 「いや、もう仲直りしてるだろ。つかそもそも喧嘩したとは思ってねえし」 グラスを渡して入れてもらってる間に肉を頬張る。美味い。肉と酒の組み合わせがこんなに最強だとは思わなかった。 また中身が入ったグラスに口を付けて、思わず頬が緩む。 「ユーリは酒が強そうだ」 「そうか?でも酔ったら後は頼む。あ、セックスはなしな」 釘を刺した言葉にぐっと言葉を詰まらせるジークが可愛くて俺はまた空になったグラスを渡した。ペースが速いと窘められるが聞こえないふりをして別の肉を口に入れる。 うん、これも合うな。 >> index (C)siwasu 2012.03.21 |