会長と危険なアレ2



「死ぬ、死ぬ死ぬ、しんじゃうぅ…っ」
「ご遺体はちゃんとご家族の元にお届けしますから安心してくださいね」
「ユイスちゃん酷くない?!」

 楓ちゃんの爆弾発言から数日。どうやら会長はユイスちゃんの所に寝泊まりしつつ(なんて羨ましい)魔王様から逃げ回っているらしい。
が、会長不足で魔王様もそろそろ限界だし、かといって無理に捕まえて嫌われるよりはこっちに話を聞いた方が早いと思ったのか、ユイスちゃんの色仕掛けに見事引っかかった俺は現在魔王様に胸倉を掴まれていた。会計の姿のままでは加減の効かない今の魔王様に胸倉を掴まれただけで死んでしまうので慌てて半獣の姿に変わるが、苦しさは変わらないしなんなら余計力が強くなった気がする。

「うっ、うっ、ユイスちゃんが珍しく露出度高めでお茶誘うからこれはもうオッケーなんだと思ったのに……」
「首元緩めたぐらいで鼻息荒くされるとは思わなかったんで少し気持ち悪いな、と感じました」
「真顔で言うのやめて傷つくから!」

 話を聞く限りユイスちゃんもそれなりの被害を受けたのだろう、少し疲れた顔をしている。
必死に訴え続けていると、ユイスちゃんは呆れたような溜め息を漏らして唇を噛みしめながら泣くのを我慢している魔王様を宥めてくれた。
 ……魔王様がする顔じゃないよね、これ。

「ううっ、ユーリが帰って来ない…」
「ほら、泣いたら余計帰って来てくれなくなりますよ」

 俺を解放した魔王様はそのまま崩れ落ちて今にも泣きそうだ。
 けれどユイスちゃんの言葉に持ち直したのか、潤んでいた瞳を拭って眉を寄せると今度は俺に顔を寄せてきた。

「あ、あのぅ…」
「まずはその毛を剥いで肉は残さずラゴーブルの餌にしよう。あやつらは獣の肉を好むからな」
「ぎゃー!やだやだやだ!!俺まだ死にたくない!!!」

 俺は慌てて飛び跳ねると天井の釣り下がった照明にしがみついて距離を取る。
 睨みあげてくるドス黒いオーラを纏った魔王様はやっぱり魔王様だ!

「大体、何度も言ってるように俺は被害者なんだってば!」
「ユーリがお前を押し倒したとでも言うのか?あの面倒臭がり屋のユーリが!?」
「そうだよ!あの面倒臭がり屋でセックスもマグロを公言するような会長が俺の服ひん剥いて…あー!思い出したくない、もうやだ!」

 忘れようとしてたあの時のことが脳裏でフラッシュバックされて俺は首を振った。
 本来なら会長とセックスなんて儲けもんぐらいに思う俺だけど、あの日のことはノーカンにして欲しいし出来れば記憶から完全に抹消したい。

「ジーク様、このままじゃ埒があきません。腸が煮えくり返る気持ちも分かりますし処刑は是非ともお手伝いしたいのですが、一先ずロジから当時の話を聞いてみてはいかがでしょうか?」
「う、ううむ…」
「ユイスちゃん助け舟出してるようで舟に穴あけてるよね!?じわじわ溺死させようとしてるよね!?」

 思い出したくないって言ってるのに話をさせる方向に持っていくユイスちゃんは鬼でしかない。しかも例え話をしたとしても、魔王様の怒りが余計増すだけのような気もする。

「分かったよ、じゃあ魔王様も同じ目に合えばいいんだ!」
「……同じ目とは?」

 魔王様が眉を寄せて首を傾げる。話を聞いてくれる気になったのか、幾分か和らいだ空気に俺は照明から器用に飛び降りると魔王様の両肩を掴んで真剣な目を向けた。

「後悔しても知らないんだからね」
「ユーリのことで後悔などするわけがないだろう」

 不機嫌そうな視線を向けてまだ怒っているのか睨んでくる魔王様に、俺は心中で魔王様が後悔する方に全財産賭けて口を開いた。

「会長が帰ってきたら、まずは――」




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(C)siwasu 2012.03.21


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