親衛隊長と会長7



「おー!PSPにDS、あ、これ読みかけだった本じゃねーか。何から何まですまねぇな」
「いえ、会長のお役に立てて光栄です」

 翌日。再度やってきたカナメは俺の求めていたものを向こうの世界から全て持ってきてくれた。ちなみにゲーム機は渡せば向こうで充電してくれるらしい。素晴らしい。これで暇潰しアイテムが揃ったぞ。

「解散しても僕は貴方の親衛隊長です。貴方が本当に幸せでいるのなら、その協力は惜しみません」

 そう淡々と言い切るカナメの目は少しばかり腫れていた。学園内で一番苦労をかけたであろうカナメに謝罪と感謝の気持ちをこめ笑えば、首をふい、と逸らされる。

「それに…そんなに自然体な笑顔を見せる会長に、もう言うことなんてありませんから」
「カナメちゃぁーん。そろそろ書記が戻ってくるからここ閉めるよ〜。戻ってきて〜」

 天井から落ちてくる焦ったロジの声に、カナメはふん、と息を鳴らすとこちらで用意した梯子で登って行く。その引き出し、天井以外で開けねーのか…?
 半顔で見送る俺と、休憩で訪れたジークを余所目に向こうの世界に戻っていくカナメは、不意にそういえば…と顔だけこちらに出してきた。

「魔王様、会長のこと、大事に扱っておられますか?」
「勿論に決まっておるだろ」

 さっさと帰れと俺を抱き締めて手で払う仕草を見せるジークの態度がカナメには面白くないようだ。冷たい視線を向けてくる。

「その雰囲気からして会長が下なんですよね?」
「俺がこんなデカい男に突っ込む趣味があると思うか?」
「まぁ…そうですよね」

 聞いておきながら何故か顔を赤らめるカナメを訝しげに見ていると、その口が不敵に笑った。嫌な予感がする。

「魔王様は会長の初めての相手をご存知で?」
「知っておるのか!?」
「おい待てっ!その話はむっぐ」

 カナメの今から口に出されるであろう言葉に制止をかければ、ジークが俺の口を塞いでくる。振りほどこうにもがっしりと抱き込まれて、身動きが全く取れない。
 せめてもと怒りを含ませて睨みつけるが、殺気を感じてそれ以上は何も出来なくなってしまった。

「わー!!カナメちゃん、その話は本当に待…っ」
「会長の初めての相手は、こいつですよ」

 焦る俺と殺る気満々なジーク、それを見ながらカナメは引き出しの向こう側で慌てるロジの襟首を掴み、そのまま顔をこちらに突き出してくる。
 しん、と沈黙が部屋を駆け抜けた。

「ロジ…貴様…」
「わー!本当、本当これはちょっとした過ちっていうか事件っていうか俺は悪くないっていうか…!」

 今にも相手を殺しそうな勢いで睨みつけてくるジークに、ロジは半泣きでカナメの手を勢いよく振りほどくと向こうの世界に走り去るように逃げていく。「どっちかっていうと俺は被害者なんだからぁー!!!」という叫び声が段々と離れていくのを耳にしながら、俺はカナメを睨みつけた。

「これぐらいの仕返しは、してもいいでしょう?」

 そう鼻で笑われ、そういえばこいつはこういう奴なんだったと思い出す。

「それでは後はごゆっくり。週一ぐらいは、顔を見にきますね」

 最後にまた来るような言動を残して今度こそ向こうの世界に帰っていったカナメ。天井にはまた見慣れた柄が並んでいた。
 残った俺たちはというと、先程の状態のまま固まって沈黙している。

「ユーリ…」
「………」

 俺に初めて向ける怒りの声に、俺はビクリと肩を揺らした。

「魔王様!そろそろ休憩は終わりですよ!」

 そんな時タイミング良くユイスが現れジークをせっつかす。流石だユイス。こんなにもお前が救いの神に見えたことはないぞ。
 状況を知らないユイスは、ジークの背中を押すと執務室の方まで誘導して行く。それを素直に受け入れるジークに珍しい、と視線を向ければやはり、怒っていた。こんなにも怒ることこいつにも出来たんだったな、と思えるぐらい怒っていた。

「続きは帰ってから聞く」

 そう低い声で、俺に目だけ笑わず笑みを向けるジークが去って行くのを見つめながら、俺は真剣に向こうの世界に逃げたいと切実に思った。
 恐らくロジも暫くはこちらの世界に帰ってこないだろう。
 俺は、この後の面倒臭くなるであろう状況に身震いしながら、流石は俺の親衛隊長だと小さいながらに負けん気の強い奴を思って小さく「面倒臭え…」と呟いた。
 …どっか隠れるとこねぇかな、この屋敷。



end.



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(C)siwasu 2012.03.21


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