親衛隊長と会長5



「おい、お前に言われたこと全部試しても伝わらねーじゃねーか…」
「おっかしいなぁ〜?これでも会長が学園で見せたことないような姿見せたつもりなんだけどー」
「ジークにも見せたことないけどな」
「そこは見せてあげてよ…」

 4人分の夕食が運ばれてくる中、俺とロジはどうしたものかと頭を抱える。このままじゃカナメがここに居座ることになる。流石にそれは困る。ジークも我慢しているがそろそろ限界のようだ。

「このままじゃジークが先に爆発する」
「まぁ会長にあんなにベタベタされたらねぇ…」
「それもあるが…今日は元々…オッケーの日だったからな」
「オッケー…?あ、あぁ、あ!そういうことね〜。だからあの時もそのまま盛ってたのかぁ」
「このまま今日はお預けにでもなってみろ、後で俺が被害を被る。それだけでなくても回数制限つけてから一回がねちっこいっていうのに…」
「会長、そういうことはあけっぴろげに言えるのにねー…」

 呆れた視線を受けながら俺はジークの方を見た。苛立っているのか、貧乏ゆすりをしながら頬ずえをつきカナメを睨んでいる。俺の友人(親衛隊長と言えば説明が面倒だからだ)と聞いているせいかどうせ口では勝てないからか口をぐっと横に結んでいるが。

「会長、いい加減にしてください」

 さて、どうしたものかと考えていると、沈黙の中口を開いたのはカナメだった。

「いつまでこんな茶番を続けているのですか?探せばこんな契約、無しにする方法だってあるでしょう?」

 そう言いながらキッと俺を見つめるカナメは僅かだが目が潤んでいる。
 もしかしてこいつ…。
 俺は無言で座っているジークに近付くと、そのまま顎を取る。そしてゆっくり顔を下ろすと、

「っん、っは」

 久しぶりに、カナメから「これ以上廃人を出さないでください!」と怒られていたキステクでジークの唇を貪り尽くした。
 これに慌てたジークだったが、すぐに順応すると舌を出して俺の口に差し込んでくる。
 何度か角度を変えて口付けを続け、体が火照り出す前に唇を離せば、すっかりその気になったジークに腰を掴まれて抱きつかれてしまった。
 俺はそんなジークの髪を撫でながらカナメに視線を向けて口を開く。

「カナメ、お前…本当はもう気付いてんだろ」

 その言葉にロジが驚いてカナメの方を向いた。
 当の本人は唇をグッと噛んで俺を見つめている。

「俺のことはともかく…ロジとジーク見てたら分かるだろ。お前そういう所はすぐ気付くんだし」
「あ、そういえば…」
「お前こそ、もう意地張ってんな。人にこんな面倒臭えことさせやがっ、て…」

 そうカナメに呆れた溜息をついた時だった。堪えきれないものがこみ上げてきたのか、カナメの目から溢れ出すように涙が零れる。

「え、おい、カナ、メ…?」

 いつも皮肉たっぷりの態度で堂々としている、泣いている所なんか見たことないカナメが、ボロボロと盛大に涙を零している。
 これには俺も驚きだ。

「だっ、だって、か、会長、好っきな、人なんか、面倒臭っいから、作らないって、」
「カ、カナメ、おい、泣かなくても…」
「ぼっ、僕だって、会長のこと、好きだっ、たのっに、い、う、うあ、うあああーーーんっ!!」

  そして、そのまま子供のようにカナメはわんわんと泣き出した。俺は慌ててぽかんと口を開いているジークを引き剥がしカナメに駆け寄る。
 何よりも泣いてる奴が嫌いということを理解しているカナメが泣くなんてよっぽどのことだ。そのまま泣き続ける頭を抱き込んで背中をゆっくり叩いてやれば、ようやく落ち着いてきたのかしゃくり声を上げながら俺の背中にしがみついた。

「あーもう、面倒臭え。泣く奴が一番嫌いだっていつも言ってるよな?」
「だっ、て、会長が…」
「こればっかりは仕方ねーだろ、…なっちまったんだから」

 あやしながらジークに聞こえないよう耳元で伝えれば、また泣きそうになるカナメを「だぁー!泣くな泣くな!」と腕の中に抱き込んだ。

「カナメちゃんがわんわん泣く姿なんて初めて見た…写メっとこーっと」
「…お前そんなことばっかするからカナメに嫌われるんだぞ」

 楽しそうに俺達を携帯のカメラで撮るロジに半眼を送れば、「相模会計…後で覚えてろよ」と胸から物騒な声が聞こえてきた。髪で隠れた耳がほんのり赤くなっているが、どうやらいつものカナメに戻ったようだ。
 それからカナメにジークに向かって謝罪させ(かなり渋っていたが)そこそこ打ち解けた夕食を4人で済ませると「お騒がせしました」とカナメはロジと共に帰っていった。
 ようやくひと段落がついて、俺はようやくホッと息をつきながらベッドに寝転がる。今日はなんて面倒臭い一日だったんだ…。



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(C)siwasu 2012.03.21


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