親衛隊長と会長3 「つまり、会長はこの世界で離れれば死が訪れる夫婦関係を築いてしまった為戻ることが出来ないと?」 「まぁかいつまんで説明するとそんな感じだな」 カナメが意識を取り戻してから応接間に場所を移した俺たちは、ロジの説明で(俺はそういうの面倒臭えから任せた)ようやく状況をこいつに教えることが出来た。 ちなみに騒ぎを聞きつけて来たユイスはロジが言いくるめ、ピグモとアラモには帰ってきたら直接部屋に戻って大人しくするように伝えてある。 「ところで相手に死が訪れた場合、相手はどうなるのですか?」 「あー、一応契約はなくなるけど戻ったっていう前例はないなぁ…多分問題ないと思うけど」 「よし。会長、こいつ殺しましょう」 「待てカナメ。これでも一応魔王だ。死んだら後が面倒臭い」 「ユーリ!?」 俺は立ち上がりかけたカナメの裾を引っ張って座らせる。今は俺とカナメ、正面にジークとロジがテーブルを挟んで腰かけている状況だ。ジークを睨み付けて威嚇するカナメと、負けじと睨み返すがイマイチ迫力の出ないジークを横目に俺はロジを手招きして顔を近づけた。 「お前…ここまで説明してなかったのかよ」 「言ったら真っ先に俺が殺されちゃうよ〜」 確かに。お前人一倍カナメに嫌われてるもんな。 「何をコソコソと話している、この泥棒猫。会長も。そんな男と話してると病気が移りますよ、主に下の」 「おっ、俺は何も病気なんて持ってないよ!?」 「その辺りにしとけ、結果をどうこう言っても仕方ねーだろ」 「それに会長も会長です。どうせ面倒臭いの一言で色々と大事な要点すっ飛ばしてたんでしょう」 「うっ」 その通りなので何も言えない。けれど唯一反論出来る「俺もジークのことが好きになったんだから仕方ない」という言葉は言いたくない。もう二度と言わないって本人にも言ったし。 「ていうかさ、楓ちゃん。会長がここに留まる理由、本当に分かんない??」 さてどうしようかと考えていると苦笑しながらもロジが助け舟を出してくれた。彼女作るのも面倒臭いと言っていた程の面倒臭がり屋の俺がこいつの伴侶をやってんだ。流石のカナメも気付くだろう。 「…学園の生徒を、ご両親を心配させてまでここに残る理由なんてあるんですか?」 だが、不思議そうにきょとんと目を丸くさせるカナメに肩を落とした。そうだ。観察力に長けていて人の考えも全部お見通しなこいつだが、何故か俺に対しては鈍い。空気も読めない。 昔高熱を出した時も、気付かないカナメは無理矢理親衛隊とのお茶会に引っ張り、オロオロと心配そうな様子を見せる親衛隊を他所に俯せる俺に「会長なんだから背筋を伸ばしてしゃきっとしてください」と隠れて足を踏まれたのは苦い思い出だ。 これで自分は誰よりも俺のことを理解していると思い込んでいるから性質が悪い。今までこの勘違いで実害がなかったのは俺が基本的に面倒臭がって厄介ごとを嫌ったからだろう。 「ですからこいつさっさと殺して戻りましょう」 「貴様…言わせておけば」 流石のジークも青筋を立てて身を乗り出した。が、やっぱり言い負かされて泣きそうになっている。 「会長、ちょっと…」 久しぶりに見る人間の姿をしたロジ(姿を戻した時カナメに一から説明するのが面倒だからだそうだ。ちなみにユイスには人間臭いと言われ嫌悪感丸出しで離れられたとか)に促され、俺は席を立つ。この二人を残すのは不安だがジークに絶対泣くなよ、と釘を刺して誘われるまま隣の部屋に移った。 「お前、あっちのことは何とかしてくれるんじゃなかったのかよ」 「俺が楓ちゃんに敵うと思う〜?」 「むぅ」 「ていうか楓ちゃん、もう完全に魔王様のこと会長を無理矢理手籠めにした悪者扱いしてるよ〜?」 「どうしたものか…」 あいつを言いくるめるのは至難の技だ。口が立つ所はサーヴァに似ているとも言える。 「会長が楓ちゃんに自分の本当の気持ち伝えたら済む話じゃないのー?」 「そ、れは…以外で何か考えろ」 「えー!」 不満気な声を上げられたが無理なものは無理だ。言ってジークがますます調子に乗っても困る。 「それが一番早いんだけど…」 「………あー、無理。んなこっ恥ずかしいこと言えるか」 言った自分を想像しただけで俺が死にたくなる。そんな俺に「態度には出せるのに口には出せないってどんなツンデレ〜」とぶつくさ言うロジが思いついたようにあ、と口を開いた。 「なんだ?」 「言葉に出来ないなら態度で伝えればいいじゃん!」 「…つまり?」 「今日一日魔王様に甘えまくれば、あの楓ちゃんも気付くでしょ〜?」 「あー…」 まぁそれなら出来んこともない。し、流石のカナメも分かるだろう。他人にベタベタする所なんて見せたことねーし。 「そうなれば早速実行だね☆」 そうウインクするロジの目が面白そうに輝いてるのは多分気のせいじゃないので後でシメることにする。 >> index (C)siwasu 2012.03.21 |