親衛隊長と会長2



「あー何か最近飽きてきたなぁ…」

 ベッドに転がり天井の柄を数えることも終わった俺は、ゴロゴロとベッドの上を転がる。
 初めは寝放題、だらけ放題、遊び放題だと喜んでいたが、二か月も経てば飽きる。どうしても飽きる。最近ユイスの奴も魔王のなんちゃらって行事のせいでジークにつきっきりだから勉強しろと小言を言われることもない。だがしかしどんなに暇でも勉強する気は毛頭ない。
 ピグモとアラモも最近は外に遊びに行くようになったし、かといって一緒についてくなんて子供っぽいことも出来ないし、何よりジークからはこの館内から出るなと釘を刺されている。まだ全員が人間に友好な訳ではないようだ。

「テレビ…漫画…小説…アニメ…ゲーム…」

 どちらかといえばインドア派な俺は、既にこの世界での屋内のものは遊び尽してしまったのだ。
 一回こちらの世界のチェスなるものをしてみたがあれは駄目だ。この世界の歴史を知らないと意味がないし、けれどだからといって歴史を覚えるつもりもやはり、毛頭なかった。
 そう思えば元の世界は屋内での暇潰しが多かったんだなぁ…と、少し懐かしく思いながらもう一回天井の柄を端から数えなおすか、と見上げればいつの間にか柄が消えていた。

「か、いちょ…」

 代わりにあった…いや、いたのは会計の姿をしているロジと、懐かしい顔…いや、出来れば見たくない顔と訂正させて頂く。

「…あーあ、暇すぎて白昼夢見ちまったじゃねーか…」

 そう言いながら目線を逸らして転がった俺の上から容赦ない飛び込みと肘鉄を落とすこの男は、元いた世界での俺の親衛隊長、ある意味ユイスに似ているスパルタ教官のあだ名を持つ楓要(かえで かなめ)という。

「っっっぶねぇなぁ!!怪我したらどうすんだお前…!!」
「こんなもの避けられない会長はただの幻覚ですので」
「相変わらず容赦なぇな、カナメ…」

 何の躊躇もなく、恐らくあの引き出しから飛び降りたカナメはベッドの上で肘鉄からの華麗な着地を決めると、ゆっくりと辺りを見回しながら立ち上がった。ていうかなんでこいつがここにいるんだ。

「おい、ロジ」
「お、俺は悪くないもんね!楓ちゃんに勝てる相手がいるなら見てみたいもんね!!」

 そうまくし立てながらカナメと違い恐る恐る降りるロジ。お前…言い負かされたんだな。

「相模からかいつまんで話は聞きましたが…成程。こんな世界があるんですね」

 流石に驚きを隠せないのか、少し息を呑みながら目を丸くさせて窓から外を見渡すカナメに俺は少し得意げになる。

「どうだ」
「いや、別にそこカイチョーがドヤ顔する所じゃないから」

 そう呆れるロジの視線を遮るようにカナメは窓から俺にずい、と近付くと俺の腕を掴む。

「さ、会長が見つかったとなれば話は終わりですね。早く帰りましょう」
「い、いや待てカナメ。ちょっと今は帰れない事情があって―――」
「学園の生徒達を、会長の家族を心配させてまで帰れない事情って何ですか?理由次第では腹じゃなくてそのお綺麗な顔面を僭越ながら殴ります」
「腹は決まってるんだな…」

 本当こんな所に来てもいつも通りだなお前は、と少しだけ懐かしさに笑みを浮かべるとカナメは何故か頬を赤らめて手を離した。

「ん?どうした?」
「カイチョー…自分では気付いてないのかもだけど、こっち来てから笑うこと多くなってるから」
「だから?…あ、…あぁ」

 そういえばこっちは美形だらけで忘れていたが、向こうの世界ではそこそこの顔で通ってるんだったな。
 そんなことをぼんやり思っていると、毎日の恒例となっている荒々しい足音が近づいてきた。

「やばい…カナメ、お前ちょっと隠れろ」
「何ですか急に」
「いいから」
「ほらほら楓ちゃんこっちこっち〜」

 不思議そうな顔を見せるカナメを手で払えば、ロジが強引に引っ張ってクローゼットの中に避難する。流石に急に鉢合わせればお互い混乱と諍いが起きるに決まっている。いや、むしろあいつが泣かされるに決まってる。
 そんな不安を抱いていると、荒々しい足音が近づき勢いよく扉が開いた。

「ユゥーリィーーー!!!!」

 そのまま俺に飛びつき抱きしめながら、ジークは俺をベッドに押し倒す。

「おっい、ちょっ」
「お前に会えない8時間17分、寂しかったぞ…!」
「昼飯の時に会ってるけどな」

 呆れた目を向けるもジークはそのまま首筋に顔を埋める。

「私はお前の肌も、温もりも、全て感じていたいのだ…」
「いや、ちょっ、待てって今はそれどころじゃ…っふ、ん…!」

 そのまま唇を合わせてくるジークに制止をかけるべく首を振って両腕を伸ばすが、腰にある隙間から直に触られてしまう。
 本当何でこの世界には下着の習慣がないんだ。

「けれどお前のここは歓迎しているようだぞ?」
「あ、だ、から、今―――」
「何をしているお前はぁぁぁっっっ!!!!!」

 そんなことをしてるとあいつが、と言いかけた所でカナメの怒声と共に視界からジークの姿が消える。
 やっぱり、とクローゼットの方を見ると頭を下げるロジがいた。

「か、会長を組み敷くだけでも万死に値するというのに、い、いいい、陰茎まで…っ」

 俺を抱きしめながら目尻に涙を浮かべ顔を真っ赤にしているカナメは、打ち所が悪かったのだろう跳び蹴りを食らわされ呻いているジークを睨み付ける。
 肩を震わせているその姿に敵を威嚇する猫を思い出した。

「な、んだ貴様は…」

 ようやく起き上がったジークは、俺と初めて会った時のような低い声をカナメに向ける。だが、そんな威圧感もこいつに効果はない。

「お前こそ誰だ!そんな見るからに痛そうなコスプレをして、いい大人が恥ずかしいと思わないのか!大体なんだその無駄に長く伸ばしたワカメのような毛は。それにいかにも筋肉を見せたいが為のような露出した服装。それで格好いいとでも思っているのか?お前にはそんな所しか誇示する所はないのか?」
「はい、ストップ。ジーク、お前も泣くな。それでも俺の旦那か」

 流石にこれ以上は、とさり気なくジークとの関係を伺わせる発言を混ぜて待ったをかければ流石聡い男だ。訝しげな視線を俺に見せてきた。

「旦那?」
「そ。俺今、こっちでこいつのヨメやってんだよ」

 言えば、元々混乱していた頭を必死の理性で留めていたのだろう。
 それが限界にきたのか、カナメは泡を吹いて失神した。



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(C)siwasu 2012.03.21


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