ロジの番外編



※脇役CP注意
ユーリとジークが出会う前の話です。



◆◇◆◇◆◇



 相模虎徹(さがみ こてつ)ことロジ・ルーズヴェルトと言えば、第二夫人とは言え異界の女性と名門であるルーズヴェルト家の子供として名が知れていた。生まれた時など東の国の魔王が顔を覗かせにきた程である。
 どんな大物に育つのだろうか、そんな周囲の期待を裏切るように母親は生まれたてのロジを連れて異界に戻ってしまった。これに怒るのはルーズヴェルト家の家長だったが、逃げるように帰ってしまった妻にロジの父親は何も言わずただ妻の帰りを待つだけで、当時ルーズヴェルトの跡取りは妻に何も言えない臆病者だと笑われていた。
 妻がロジと共に帰ってきたのはそれから10年後。東の国の魔王が世代交代となり、息子のサーヴァが魔王の座に収まるその日にこの世界にふらっと戻ってきたロジは、そのまま彼の側近として当たり前のように立っていた。
 そこでようやく、周囲は彼ら家族の意図していたことを理解したのだ。

「貴方が僕と同じ立場にいる事実など、認めません」
「そーんな固いこと言わないでさぁ、仲良くしようよ〜」
「ちょ、それジーク様の茶菓子ですよ!何勝手に食べているのですか…!!」

 半分かけたクッキーを目の前にいる彼から奪いながら、ユイスは呆れたのか怒りの余りなのか、大きく溜息をついた。
 今別室では三年ぶりに泣き止んだジークとサーヴァが謁見を行っているが、その中身はまたジークを泣かせにきただけであろう。ユイスはその様子を想像してまた溜息をついた。この癖さえなければ彼の力は魔王の中でも一番であろう。せめて苛めっ子代表と言わんばかりのサーヴァと顔を合わせなければマシだろうが、あれやこれやとジークに会う機会を作る彼の手腕には手を焼くものがあった。いや、主にその悪知恵をしているのが目の前にいる、虎の顔をした男だ。
 15という歴代最年少の側近。実は生まれた時からそれが決まっていたなどと誰が思うだろうか。それでも無駄な争いを避ける為、異界で育てたのは間違いではないとユイスは思った。予定では交代はあと50年近く先の話だと言われていたのだが、先代の魔王が異界で隠居するというまさかの宣言に勿論西の国も当時は慌てたものだった。

「人間の臭いがつくのでそれ以上近寄らないでください」
「相変わらずユイスちゃんは手厳しいなぁ〜、もう」

 締まりのない顔に苛立つ感情を隠しもせずユイスは小さな舌打ちを一つ零した。

「大体、年齢にしても仕事にしても僕は貴方よりも先輩なんです!そんな先輩に対しちゃん付けとは愚弄しているのですか?」
「いや、そこは親愛の証で〜」
「不愉快です!」

 ピシャリと言い切ってから、ユイスは年下に大人気なかっただろうかと視線をそちらに向ける。だが、当の本人は気にした様子もなくかけたり焼き過ぎたりと、失敗となった為横に避けていた焼き菓子に手を伸ばしていた。

「ロジ、貴方…」

 いい加減にしろ、と堪忍袋の尾が切れそうになる所で、ロジはようやくユイスを見てだって、と子供のように(実際まだ子供なのだが)唇を尖らせた。

「好きな子の興味を引きたくて悪戯したり苛めたりするのは仕方ないじゃん?」
「は?」

 ユイスは彼が何を言っているのか理解出来ずに一瞬固まった。そのタイミングを逃さないかのようにロジは距離を詰めると、素早く唇を奪い舐める。眼前にある虎の顔が無邪気に笑ってるのを見て、ようやく自分がキスをされたのだとユイスは気付いたが、もうその時には逃げるように体を引かせており掴みかかることは叶わなかった。

「ユイスちゃん、俺のヨメになってよ!」
「…は?」
「母さんが、この世界で一生を過ごしたいと思える人が現れたのなら私のようにならずヨメを選ぶべきだ、って言ってたよ?」
「いや、待ちなさい、突っ込みたい所が多過ぎて開いた口が塞がらないのですが」
「ん!ユイスちゃんが突っ込みたいなら俺頑張るよ〜!」
「そういう意味じゃありません!!」

 会話にならない話に頭が痛くなってきた所で、丁度タイミング良くサーヴァが現れた。

「帰るぞ、ロジ」
「今日の記録は?」
「15分。頑張った方だが、まだまだだな」

 会話を聞くにどうやらまた泣かされたらしい。暫く静かに過ごせると思っていたのだが、また向こう2年近く上司の泣き声を聞き続けなければいけないのか。

「それじゃ、また来るね!」
「お前はもう永遠に来なくていいです」

 サーヴァに一礼しながら、手を振ってくるロジに辛辣な言葉を浴びせたユイスは、彼の背中に乗って窓から降りるサーヴァの後姿を見送って溜息をついた。作り過ぎたクッキーをどうしようか、と悩みながら。



「何だ、あんなのが好きなのか」
「あんなのとか言わないで〜!!」

 背中の上からからかう上司に、ロジは頬を膨れさせながら木々の上をかける。

「あれは苦労するぞ?ああいうタイプは意外に本性が怖いという奴が多いからな」
「知ってる知ってる〜!」

 無邪気に返事するロジにサーヴァはおや、と首を傾げた。

「昔にでも面識があるのか?」
「まぁね〜幼稚園の時に〜」
「何があったか…いや、どうせお前のことだ。盛りに盛ったノロケ話しか出ないのだろう」
「うふふー、否定は出来ないかなぁ〜」

 楽しそうに風を切り走るロジに、サーヴァは人の恋路は何とやら、と脳裏で呟いて若くして責務を負わされたこの少年の恋が実るよう、小さく祈るように瞳を閉じた。
 ついでに情けない泣き虫魔王にもいい相手が見つかればな、と思いながら。



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(C)siwasu 2012.03.21


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