ピグモとアラモのプチ冒険4 第3話! 城内探索! (うぅ…怖い人がいっぱい…) 「ん?……お、新入りか。よろしくな」 「あ、はじめまして。アラモです」 [ピグモだぞ!] 執事さんの言う通り、バラスを出て見てみると正門の方は殺気立った赤いオーラが大きな渦を空に作ってるのに対し、反対側は黄色や緑色の、比較的穏やかな色が漂っていた。知らずに正門なんか行ってたら逃げるように帰ってきていたと思う。あっちはまた今度、慣れてからにしようとクッキーを食べている為僕の肩からずり落ちそうになっている兄さんの体勢を整えてあげる。 そして周りを見渡しながら歩いていると、正面から警備兵らしきカエルのおじさんが大きな亀に乗りながら近付いてきた。初めはちょっと眉をしかめていたけど、兄さんを掴んでお腹のメダルを見えるように掲げるとその表情はすぐに柔らかくなって笑う。僕は挨拶とお辞儀をすると、カエルのおじさんはその名前に「聞き覚えがあるなぁ」と呟いてすぐに思い出したのか掌を叩いた。 「アラモ……あぁ!ユーリ様の。ってことは今は…探検中かな?」 ちょっと咎めるような、でも楽しんでるようなニヤッとした笑みでおじさんが僕たちを見る。 「あ、はい…」 [敵がいないか探してるんだってば!] 「いいねぇ探検!俺もまだ子供の時、親父に連れられてここに来た当初は珍しいものがいっぱいでよくうろちょろしていたよ」 懐かしそうに昔を思い出しながら恰幅のいい腹を叩くおじさんは、すぐに我に返ると僕たちを見てにかっと笑った。 「じゃあカペレの前を通ってあの主塔の入り口が見えたら、回りこんで裏側に行ってごらん。裏門と、大きな農園と少し離れた所に庭園…あぁ、あと井戸もあるよ。今の時期なら色んな実がついてるからそこの農夫に好きなものを貰っておいで」 「ありがとうございます」 「俺もさっきつまんできた所なんだよ。昨日マルロの実がついたって聞いて―――」 「[マルロの実!?]」 僕たちはおじさんのその単語に勢いよく食いついた。マルロの実は、大きなマルロという木につくとても美味しい実だ。マルロの実は3日でオルロという果物に成長してしまうのだけど、果物よりも美味しい実の方が僕たちの世界では大人気だった。育てるのが難しい上に木がなる岩山はケチで気性の荒いドワーフが占拠しているので滅多に食べることは出来ない。その実が裏庭になっている。僕たちは顔を見合わせて頷いた。 きっとユーリも食べたことがない筈だ。折角だからお土産に貰っていこう。 「まだあると思うから貰っておいで。多分あのペースだと今日中にはなくなっちまうから」 [弟よ急げ!マルロが俺様たちを呼んでるんだぞ!] なりきりヒーローは終わったのか、すっかり実の方に意識が飛んでいる兄さん。けれど僕もその実は大好物だったのでおじさんに礼を言って急いで教えてもらった通りの道順を走っていった。 カペレの前を通ってすぐ見える主塔の入り口、そこをぐるっと回って裏側に駆け込むと。 「本当だ、なってる!」 [マルロ!マルロだ!] 他の木よりも一際大きいマルロが飛び込んできて、僕たちは目を輝かせる。 はしゃいでいると、畑の方で作業していた熊の農夫さんが近付いてきた。僕はすかさず兄さんを、正確には兄さんの胴体についているメダルを見せる。 「んん?」 目が悪いのか最初眉根を寄せていた農夫さんは、首に吊るしてあった眼鏡をかけて再度僕たちを見て、豪快に笑った。 「なんだあ、コーヴォルかー!」 「はじめまして、アラモと…これが、兄さんです」 [ピグモなんだぞ!] 「ん?ユーリ様んとこの?」 「はい、そうです」 「うちの城にはコーヴォルいなかった筈なんでビックリしたわぁ!で、なしてこんな所きたん?」 「あ、はい。その、マルロの実が、あるって、聞いて」 はしゃいでたことが少し恥ずかしくなってそう口ごもりながら伝えれば、農夫さんはまた豪快に笑って僕たちを覗き込むように落としていた腰を上げた。僕の3倍以上もある大きな巨体が影になって兄さんはビクリと体を震わせる。 「今日は朝から大盛況だなあ!いっつも皆ここには来ねえ癖によぉ!」 「あ、す、すみません…」 「いいのいいの!マルロの実はご馳走だかんなぁ!そこのカゴに詰んであるの、何個か食べていきなあ」 「あ、ありがとうございます!」 [マルロぉぉぉー!!] 声の大きな農夫さんはそう言って木の下に並べてある小さなカゴの一つを指差す。途端に兄さんは目を輝かせてそれに飛びついた。 「あぁ、あんまり食べ過ぎんなよぉ!皆の分なくなっちまったら怒られっどお!」 [何だよカゴいっぱいあるんだからこれぐらいいいだろ!] 「兄ちゃん、あの小僧止めてくれえ!」 「ええっと…他のカゴは…?」 「あれは城外や決まった奴らに配るもんなんだよぉ!」 「あ、すみません。…兄さん、他のはもうあげる人が決まってるって。だからそのカゴは皆の分―――」 僕はそう言ってカゴに近付き体ごとその中に埋もれている兄さんを引っ張り出そうとするが、その前に大きな歯が兄さんの体を掴んだ。気付かなかった僕はビックリして肩を揺らし後ずさると、横からぬっと現れた大きな影を見た。 「おい、何全部食おうとしてんだテメェ」 [うあっ、あ、おい離せよっ] 突然現れた影は、僕の2倍ぐらいある大きな犬だった。灰色の体に一部がこげ茶色をしているその犬は口を開けて兄さんを地面に落とすと農夫さんの方を振り向く。 「おい、グレッグ!貰ってくぞ!」 「あぁ、帰ってきたんかぁ!お前さんたちのは特別にほれ、その横の方に分けておいたぞお!」 「助かる」 大きな犬はそう言って一つ隣のカゴの器用に歯で掴んで背中に乗せると、奥にある裏門の…庭園の方へ進んでいった。それを呆然と見ていると、復活したらしい兄さんが僕の方に寄りつつ(多分怖かったんだな…)大きな犬に向かって悪態をつく。 [なんだあいつ!失礼だぞ!] 「…失礼なのはどっちだ。皆のもんガキみてぇに食い散らかしやがって」 [ん?] 「おい、そこの青いの!」 「え?あ、僕…?」 「仲間なんだったらその意地汚いコーヴォルをしっかり見張っとけ」 「え…あ、は…い」 大きな犬は兄さんの言葉に溜息をついて振り返ると、それだけ言ってまた庭園の方に足を向けた。僕たちは一瞬固まってから顔を見合わせるとすぐに大きな犬が去って行った方を見つめる。 [あ、あいつ俺の声が聞こえてたぞ!] 「うん…コーヴォルの声はコーヴォルにしか聞こえないのに」 [おっかけるぞ弟よ!] 同じことを考えていた僕は、兄さんに言われるまま農夫さんに礼を言うと大きな犬が進んでいった方―――庭園へと足を進めた。 >> index (C)siwasu 2012.03.21 |