ピグモとアラモのプチ冒険3



「それで…どうしたの?アラモくん」

 そんな様子を呆れながら見ていた男性陣のうちの1人、コックの格好をしたタコ足のお兄さんが輪の中に近付いて僕に尋ねてきた。

「あ、はい。さっき階段ですれ違ったメイドさんが探検するならここにって」
「なるほど。確かにそのままバラスを出たら不法侵入者扱いをされかねないからね」
「え?」

 僕がぎょっと目を丸くさせてお兄さんを見ると、隣のメイドさんがふふ、と笑って舌を出した。二股に伸びたそれがテーブルの上の果実を取って口に運ぶ。

「魔王城は広いでしょう?いくら結界があるとは言え知らない顔がいたら皆警戒しちゃうの。…シガールさん、アラモくんにあれあげてよ」
「はいはい、ちょっと待ってね」

 なるほど。確かに城の中は広いしたくさんの人がいる。うっかり危ない人が侵入してきたら、特に一部の魔王様を良く思ってない人間なんかが入ってきたら大変だ。どうしようと考えている僕に、隣のメイドさんはウインクを一つくれると初老の執事さんに目配せをする。
 それに執事さんは頷いて簡素なスーツのブレザーの内に隠されているポケットから何か小さなものを取り出して僕に手渡した。掌に置かれたそれは小ぶりな…。

「コイン?」
「魔王城の住人ってことを証明するものだよ。誰かに会ったらそれを見せなさい」
[わ、何だその金ぴかメダル!]

 メイドさんたちの腕からすり抜けた兄さんが僕に、正確にはコインに飛びついた。キラキラ光る黄金色のコインは兄さんの言うとおり確かに良く見ればメダルだ。多分表であろう方には初代魔王様の彫り物が、裏には模様が描かれている。

「ユーリ様の場合お顔はもう城中に知れ渡ってるから問題ないけど、君たちはまだ存在すら知らない人もいるだろうからね。それが魔王城の住人の証だから、絶対になくさないように気をつけて」
「はい、ありがとうございます」

 僕は執事さん―――シガールさんに礼を言ってメダルを持ってテーブルの上をはしゃいでる兄さんを見た。

「そういうことだから、そのメダル貸して、兄さん」
[やだ!これは俺様が持つの!!]

 …言うと思った。
 すっかりそのメダルを気に入ったらしい兄さんが離そうとしないのを溜息をつきながら見ていると、メイドさんの1人が「そのまま持つのは危ないわねぇ…」と呟いた。全くその通りである。兄さんのことだ、絶対5分後にはなくしたと騒いでいるだろう。かといって無理矢理奪うのもなぁ、と考えていると別のメイドが「あ!」と何か思いついたように後ろの男性使用人を振り返った。

「こないだ壊した時計、まだある?」
「あぁ。それなら何かに使えるかもってそこの引き出しにいれておいた気が…あ。…なるほど、いい案だね」

 そういって使用人のお兄さんはニヤリと笑って壁際に置かれていた小棚の引き出しから大きめの腕時計を取り出した。落としたのか、ケース部分のガラスが割れたらしいその時計を見て僕は首を傾げる。

「アイスピックと布を借りていい?あぁ、ありがとう。…こうやってガラス全部外しちまって、」

 メイドさんからハンカチを借りたお兄さんは、その上で時計のガラスを器用にアイスピックで外していくと、中の文字盤と針も取り除いていく。そして空洞になったケースの部分は丸い窪みだけになってしまい、僕はそこでようやくお兄さんが何をしようとしてるのか気付いた。

「ピグモくん、ちょっとだけそのメダル借りていい?」
[?…ちょっとだけだぞ!]

 そして兄さんの手から離れたメダルは丁度時計のケースの窪み、そこにかっちりと収まった。

「お、キツキツでいい感じ。これなら多少のことでは取れないだろ。丁度いいサイズのガラスもあれば良かったんだけど」
「あ、じゃあ私の時計のガラス使う?多分大きさ一緒だと思うよ!」
「いいの?」
「いいよ、仕事用だから見えたら問題ないし」

 そういってメイドさんの1人が腕時計から薄い水色がついたガラスを外してお兄さんに手渡した。それを時計のケースに埋め込めば、完成だ。使用人のお兄さんは、作業を不思議そうに見ていた兄さんの胴体にその腕時計を回して少しきつめに締め上げた。ぐえ、と悲鳴が上がったがそれよりも自分のお腹に回るメダルに感動したのか、目をキラキラと輝かせて飛び跳ねている。

「うん、飛び跳ねても問題なさそうだね」
[格好いー!!]
「良かったね、兄さん」
[おう!これ、昨日ユーリが描いてくれたヒーローの変身ベルトに似てないか!?]
「…言われてみれば」

 兄さんの胴体につけられたベルトに、そういえば昨日ユーリが図解してくれたヒーローのものに似ていると気付く。首に赤いマフラーもつけた兄さんはもうすっかりヒーローらしくなっていて、ご機嫌そうに動き回る姿を僕は笑いながら見つめた。

[真ん中の所がギュルギュルーって回ってへーん、しん!]
「じゃあそろそろ行こうか。あんまり時間がないし」

 そう言って立ち上がり、服に飛びつき肩によじ登る兄さんを手伝っているとメイドさんが「ちょっと待って」と僕たちを呼び止めた。

「探検って言ったらこれが必要でしょ」
[だから探検じゃなくて…!]
「わぁ!サンドウィッチ!それにクッキーも!」
[なに!?]

 メイドさんから渡された風呂敷の中には布に包まれたサンドウィッチとクッキー、それに木の実もあった。僕は顔を綻ばせてメイドさんに礼を言うと「正門の方は衛兵のゴブリンやリザードマンばっかりでつまらないだろうから裏手にある森側の方がオススメだよ」と教えてくれた執事さんに頷いて部屋を出てバラスの門を抜ける。途中門の衛兵さんに訝しげな顔をされたけど兄さんのお腹のメダルを見ると笑いながら手を振ってくれた。どうやら僕たちはあの最初のメイドさんに会ってなかったらバラスを出ることすら出来なかったのかもしれない。
 今度会ったらお礼を言おうと考えながら「しゅっぱあーつ!」と号令を出す兄さんに笑って僕も「しゅっぱーつ」と言いながら足を進めた。
 今からが本当の探索だと、踊る胸を押さえながら。



 ピグモアラモの

   プチ

    冒険



 第3話に続く!



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(C)siwasu 2012.03.21


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