ピグモとアラモのプチ冒険2



第2話!

バラス探索!
 (兄さんはしゃぎ過ぎ…)



「で、兄さん。どこから見て回る?」
[うーむ…最初はこの建物から敵を探していくんだぞ!]

 そう言って楽しそうにはしゃぐ兄さんを見ながら、僕は廊下を見回した。魔王城にある居住空間の中でも一番大きい奥のバラス(長方形の広い建物だ)に魔王様とユーリ、そして僕たちが住んでいる。大体の生活はここで行っていて、僕たちは3階であるこのフロアの部屋探索から始めることにした。

[やっぱ魔王城ってだけあって広いんだぞ]
「そうだね、やっぱり魔王様だから…っと」

 メインの部屋から階段の前を通り過ぎてすぐある扉から聞こえてきた声に僕は足を止めた。聞き覚えのある声にこっそり近付いて、恐る恐る僅かに開いていた扉の隙間から中を覗き込む。

「何ですかこの字は!これでは誰も読めないじゃないですか!!」
「んなこと言ったってよー、俺字、下手だもん」
「せめて誠心誠意をもって…」
「あー面倒臭ぇ。これじゃあ会長やってた時と何にも変わらねーじゃん…」
「魔王のヨメとして他の種族への親睦を築くのは重要なお仕事です。ほら、次は…これは適当でいいです」
「ん?あ、人間の国王さん所に書く分じゃねーか。ユイスって本当人間嫌いだよな」
「当然です!そもそも我々と人間は―――」
「あぁ、始まった。もうやだ」

 どうやらユーリが客室の一つを執務代わりに使っている部屋のようだ。簡易的に置かれたテーブルの上で積もる紙の塔に埋もれながら頭を抱えている。…あ、しかもそのまま寝そうになってる。

[ユイス様がユーリ虐めてるのか?]
「うーん…虐めてる、のかなあ?」
[よし、ここはヒーローの俺様が…]
「わー、待って待ってっ。今出たら絶対ややこしいことになるから…!」

 小声で話しながら、ユーリに駆け寄ろうとする兄さんを僕は両手で掴んで元いた肩に戻した。下手をすればそのまま部屋に戻されかねない。折角始めた探検が台無しになっては面白くないと、僕は適当に兄さんを言いくるめてその部屋から離れることにした。ちなみに位置を考えるにどうやら向かいの、他と少し違う扉をした部屋は魔王様の第一執務室のようだ。

[敵はどこにいるんだ!]
「実際城の中にいたらおおごとだけどね」

 すっかり夢中になってる兄さんに苦笑しながら僕たちは残りの2部屋を探索して(そこは重要なお客様用の部屋なのか豪華だったけど無人だった)階段まで引き返すと一つ下の2階へと下りていく。
 2階は来賓室や3階より少し質素な客室、そして給水室や簡易的な厨房が並んでいたけれど誰もいなかったので僕たちは早々に切り上げて1階へと下りていった。

「あれ?貴方…」

 そこで丁度ティーカップを乗せた盆を持ったメイドさんと遭遇した。階段を下りかけている僕たちを見上げて、不思議そうに首を傾げるが僕の肩に乗った兄さんを見て「あぁ」と微笑んだ。

「ピグモちゃんとアラモちゃんね」
「すみません、ちょっと探検してます」
[違う!敵を探してるんだぞ!]

 人型のコーヴォルを見るのは初めてだったらしいメイドさんは珍しいものを見たかのような目をして、上から下まで視線を動かしていく。
 僕は下手に嘘をつかない方がいいだろうと素直に目的を告げた。兄さんが肩から抗議してるが、コーヴォル以外には聞こえないその声はメイドさんには伝わらなかったようだ。

「コーヴォルってだけでも珍しいのに…人型が見れるなんて今日は何かいいことあるかも、ふふ」

 そう笑いながら僕に一礼をしたメイドさんは「探検するなら右に曲がって3つ目の部屋に行ってみて」とだけ言って僕たちをすり抜け階段を上がっていった。
 どうやらユーリと魔王様にお茶を届ける途中だったようだ。邪魔したことに少々の罪悪感を覚えながら、僕たちはメイドさんに言われた部屋に向かっていく。
 1階は上の2フロアと違って扉も装飾も少し質素な感じだった。恐らく使用人さんたちが動くためのフロアなのだろう。奥から匂う美味しそうな香りにちょっと誘惑されながら(恐らく右奥が厨房なのだろう、小麦粉の焼ける香ばしい匂いがする)僕たちはその手前の部屋、中から騒がしい声が聞こえる扉をノックしてゆっくりと開いた。
 瞬間扉という隔たりがなくなった向こう側から、わっとした笑い声が僕の耳を大きく響かせる。

「わぁっ」
[うるさいんだぞ!]
「でね、…あれ?貴方誰?」

 賑やかなこの部屋はメイドさんや執事、料理人さん達のリビングにあたる場所だったらしい。
 大きなテーブルの上に広がる珈琲や紅茶、そして余りもので作ったようなサンドウィッチが所狭しと置かれていて、それを囲むように沢山の人達が談笑している。
 けれど開いた扉から覗かせた僕の顔を見るなり、中の人たちはピタリと声を止めて僕たちを不思議そうに見た。そこに少し警戒心が見えるのは当然だろう。僕は生唾を飲み込む。

「あ、あの、僕たちユーリ…様の、その、」
「あぁ、ピグモ君とアラモ君か。その姿は初めて見るなぁ」

 僕がどう説明しようかと悩んでいると、テーブルから少し離れた場所で紅茶を手にしていた初老の男の人が肩に乗ってる兄さんを見てから納得したように口を開いた。
 この人は知っている。以前ユーリと魔王様の初夜を迎える時に僕たちを別室に運んでくれた人だ。確かこのバラスに住んでいる数少ない執事さんで(基本的にユイス様も給仕の人たちも自分たちの部屋は別のバラスにある)水と岩の種族の特徴であるカサカサに乾いた肌と長い顎鬚を紅茶を持ってない方の指で弄りながら、僕たちを見つめて目を細める。

「どうしたんだい?お茶なら今別の者が…」
「あ、あ…いえ、その、僕たちお城探索を」
[だから悪い敵がいないか探してるんだって!]
「…探検を、してまして」
「あぁ、なるほどね。確かにあの部屋に篭りっきりじゃ流石に飽きてくるか」

 笑う執事さんの声に、ようやく僕たちの話を大人しく聞いていた他の給仕さんたちが一斉に口を開いた。

「これがコーヴォル?もっとゴブリンみたいなぶっさいくなやつかと思ってた」
「ユーリ様趣味疑っててごめんなさい…!」
「可愛いー!超可愛い…!その肩にいるのがもしかしてピグモちゃん!?」
「あ、はい。僕の兄さんです」
[お、おい、つっつくんじゃないぞ!]
「へー、いいなぁ…アネリが教えてくれなかった理由分かるわ」
「だって言ったら絶対持ち場代われって言うでしょ」
「言う。むしろ今からでも遅くない、代わってアネリ!」
「やだっ絶対やだ…っ」

 給仕たちの主にメイドさん―――女性たちが僕たちを引っ張って椅子に座らせると、次々に口を開いては僕の体を触ったり兄さんにいたっては…たらい回しにされている。
 「やめろ」とか「何すんだ」と叫んでいるがコーヴォルの声は他の人たちの耳には何も届かず、ただ悲鳴だけがメイドさんの輪の中から聞こえてきた。
 …ご愁傷様、兄さん。



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(C)siwasu 2012.03.21


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