ピグモとアラモのプチ冒険1



 あたたかな昼下がり。
 ユーリとご飯を食べて一緒にお昼寝してると少し経ってユイス様の怒鳴り声が聞こえてきた。そのまま渋々引きずられていったユーリに僕はバイバイする。いつも面倒臭そうな、不機嫌そうな仏頂面が一瞬へにゃりと崩れて笑みを作った。
 僕も兄さんもこの僕たちだけに見せる表情が大好きだ。僕たちの言葉が通じないユーリに連れられて早3ヶ月。魔王様のお城で暮らせるなんて贅沢な状況にまだ戸惑いもあるけど(兄さんは何も考えてないので図々しいが)ユーリのオーラが好きなので何だかんだで僕たちは現状に幸せを感じていた。

 僕たちは基本穴ぐらの中で生活する、地と森の種族の中でも一番弱いコーヴォルだ。穴の中でしか生活出来ない訳ではないけど、外には自分たちよりも強い種族が多いため必然的に被食者として穴ぐらの中でひっそり生活するようになってしまった。
 そんな僕たちコーヴォルにも特技がある。それが生物のオーラを見ることだ。体の周りに集まる色で相手を敵か味方か判断して、上手く立ち回って生きていく。そうやってこっそり暮らしていく僕たち一族は、必要な時以外は外に出ることがない。
 だからユーリのビックリするぐらいつまらない色に惹かれて兄さんが「見に行こう」なんて言わなければ、ユーリは僕たちと出会うこともなければ、もしかしたら一生コーヴォル自体見ることがなかったかもしれない。
 本当ならユーリが僕たちを掴み抱きしめ、飼いたいと言った時に逃げるべきだった。魔王様も微妙そうな顔してたし(そりゃ番犬の糞ほどにも役に立たない僕らなんか傍にいても邪魔なだけだろう)けれどユーリの、魔王様に見せた笑顔のオーラが凄く暖かい色をしていて―――あんなにもつまらない、無彩色のオーラがこんなに暖かい色に変わるんだってことにビックリして、結局ユーリの腕の中から動くことは出来なかった。兄さんにいたっては完全にその色に酔ってのびていた。
 けれど今はユーリに連れられて良かったと思っている。どうやら可愛いものに、毛の生えた生き物に目がないユーリは僕たちといる時はいつもの無彩色に柔らかい色をつけて嬉しそうにしている。あんまり笑顔を見せないユーリだけど、僕たちといる時は頬を緩ませて幸せそうな表情を見せている。兄さんなんか「これが俺たちの使命だ」って言ってユーリに飛びついてるし。
 オーラによって魔力が変わる僕たちにとっても、ユーリはとても大事なご主人様だった。

(ユーリ、早く帰ってこないかなぁ…)

 そんな大好きなユーリがいなくなった部屋。いつものことだけど、魔王様のヨメである以上僕たちとずっと一緒にいれないのは少し寂しい。
 けれどそんなワガママばかり言っても仕方がないので、ユーリが帰ってくるまで何かしてようとここに来てすぐの頃にユーリが作ってくれた僕たちの部屋(少し大きめの箱のようなものだ。ユーリは犬小屋みたいになってしまったと苦笑していた)の中から読みかけの本を取り出す。
 昨日ユーリが途中まで読んでくれた絵本だ。以前ユーリに本を読んでいる所を見られて以来何故か子供向けの本を持ってきては寝る前に読んでくれるようになった。どうやら人間界にいる年の離れた弟にしていた行為らしい。懐かしそうに兄や弟のことを話すユーリは兄弟思いなんだな、と思いながらそれでもあまり名残惜しそうに見えないのは魔王様のことがそれだけ好きなのだと思う。
 いつもは魔王様の前でだるそうにしているユーリだけど、オーラを見ればその感情は一目瞭然だった。

[…って兄さん、何してるの]

 そこで僕はユーリが消えてから部屋を物色していた兄さんを見る。
 兄さんは何故か赤いリボンを首に巻いて、右腕だけを伸ばすポーズを見せたりそれをぐるっと前で回してみたり机から飛び降りたり…その動きを見て僕はあぁ、と合点した。

[昨日ユーリが言ってた正義のヒーロー?]
[凄いよなぁ、ブイ何とかっての!改造人間で敵と戦うんだぞ!カッコイー!]

 昨日ユーリが鼻歌を歌ってたのでそれを不思議そうに見てたら人間界の物語を教えてくれた。鼻歌はその話の「しゅだいか?」というもので、兄さんはその物語のヒーローが気に入ったようだ。彼の特徴である赤いマフラーに模したリボンをはためかせながら「変身!」と言いながら教えてもらったポーズを取っている。
 僕は兄さんは今も昔も変わらないなぁ、と呑気にその様子を見ていると急に僕を見た兄さんが近寄ってきてくい、と首を扉の方に向けた。

[何?]
[何って悪いやつらがいないか探しにいくんだよ!ショ…何とかってやつがいたら倒さないといけないんだぞ!]
[………]

 僕は兄さんに呆れた目を向けて、溜息をつくと開いていた本を閉じて立ち上がった。
 どうやら兄さんはヒーローごっこがしたいらしい。ユーリのおかげで城にも慣れたものの、そういえばまだ二人で探検なるものはしてなかったなぁと思いながら(というか今まで兄さんが言い出さなかったことにビックリだ)二人で扉に向かうと―――そこで、立ち往生してしまった。

[これどうやって開けるの?]
[ぐぬぬ!早速強敵が現れたな!]
[うん、扉だけどね]

 ノブで回して開く仕組みになっている扉。当然僕たちの身長じゃ届くはずもない。

[弟よ!出番だぞ!]
[何が?]
[人型になれば届くだろ!]
[あぁ、]

 言われて僕はそういえばその方法があったと納得した。
 コーヴォルは魔力こそ弱いものの人型になることが出来る。その時間は短いが、実際僕たちがこの姿のまま動いても城の中は歩きつくせないだろう。それなら僕が人型になって兄さんを連れて歩いたほうが早いか、と言われるままに尻尾を噛んで(コーヴォルは尻尾に魔力を貯めている)人型を作ると馴染ませるように体を動かした。

「兄さんも早く上手くなってよ」
[お前が上手いから俺はいいの!]

 人型を作る作業も上手いものと下手なものがいる。兄さんは後者で、僕は前者だった。早く早く、と手を伸ばす兄さんを呆れながら持ち上げて肩に乗せる。

[よーし、城に悪いやつがいないか探索だぞ!]
「ユーリが帰ってくるまでには戻ろうね」

 嬉しそうにはしゃぐ兄さんを見ながら僕も―――いや、もしかしたら僕の方が胸を躍らせて扉のノブを回した。

 僕たちコーヴォルの…いや、ユーリから貰った名前―――ピグモとアラモの、初の城探索だった。



 ピグモアラモの

   プチ

    冒険



 第2話に続く!



←back  next→

>> index
(C)siwasu 2012.03.21


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -