ピグモとアラモ4



「お前達…私を無視してユーリと楽しそうに会話するでない」
「…あ、忘れてた」

 背後から聞こえる声に俺は思わず無遠慮にそう呟いてしまった。
 そういえばお前いたんだっけ。
 と、続けそうになった声は呑み込んで振り返ると、ジークが不貞腐れたのか唇を尖らせながら突っ立って俺達を見下ろしている。
 そしておもむろにピグモとアラモの首根っこを掴むとベッドから放り投げた。

「お、わっ」
「わわっ」
「おいっ」

 床に転がる二人を見ながら俺は非難の声をジークに向ければ、代わりにのしかかる身体と首筋に寄せられる唇。

「ユーリは私の相手だけしていればよいのだ」

 言いながら先程の再開だと言わんばかりに尻尾を俺の腰に回すジークに、俺は焦ってそれを掴んだ。
 正直今は勘弁して欲しいという気持ちが強い。いや、勿論二人が見ているからってのもあるが何だか治療している筈なのに身体が重くなってきているような気がしてだな。

「待て、おいコラ…ッ」
「おい魔王様!ユーリは魔王様のせいで疲れてるんだぞ!!」
「そうだよ!ユーリは人間なんだからもうちょっと考えてよ…!」

 起き上がった二人が急いで近寄ってくるとジークの服を引っ張り抗議する。
 ジークは暴れる二人を冷たい目で見下ろしながら(こういう表情見ると一応こいつも魔王なんだな、と再確認する)その言葉に反応したのか、怪訝そうに俺を見た。

「疲れているのか?」
「あー…それは…」

 口ごもる俺は、どうしようかと目を泳がせる。言ったら絶対こいつ泣くしな…それは面倒臭い。
 ジークの段々と心配そうな顔が泣きそうなそれに変わる前にと俺は話を逸らすべく口を開こうとして、止まった。

「えっ」
「「ユーリ!?」」
「おい、どうしたユーリ!?」
「ち、力が…抜け…る…」

 様子の異変にすぐに気付いた3人は俺の顔を覗き込む。
 身体が大きな石でも乗ってるかのように重い。おまけに熱まで上がってきたようだ。うつ伏せのまま、指一つ動かせない俺に狼狽えるジークは「今医者を…!」と言いかけた所で控えめなノックと共に開く扉から聞こえる声に遮られた。

「ユーリ、忘れず抜いたでしょうね?あれには副作用が…」

 同時に入ってくるユイスに俺達4人は固まる。
 そして顔を上げ俺を見たユイスが、ピキリとこめかみを引き釣らせた。

「ふ、く作用…?」

 どうやら癒しハリネズミの針は、一定の時間以上刺し続けていると体力すらも奪ってしまうらしい。





「すまなかった」
「謝罪は聞くが泣くな。絶対泣くなよ。今俺はお前を怒る気力すらないんだからな」
「うっ」

 俺の言葉に涙で滲んだ目頭を慌てて拭うジークに溜め息が漏れる。
 ピグモとアラモは今ユイスに連れて行かれて何やら話をしているらしい。どうやらユイスは地と森の種族の長も務めているらしく、二人に身の振り方を教えるつもりのようだ。その辺りはあちらの事情というやつで俺は関与する隙も与えてもらえなかった。
 不安気に俺を見ながらもユイスに続く二人を思い出す。…心配だ。俺は再度溜め息を吐いた。
 それにビクリと肩を揺らしたジークが、沈黙の後再度謝罪の為の口を開いた。

「…すまなかった」
「いいって。俺も言わなかったし」

 そう言えば元の世界で生徒会の奴等が仕事をサボりだした時もこんな感じだったなぁ…。
 過去に業務を一人でこなしていたらぶっ倒れた事があって、それに怒りを通りこして呆れていた親衛隊長の顔が脳裏に過ぎる。
 今頃どうしているだろうか。あれはあれで五月蝿い男だったが控えめに俺を立てる態度は結構気に入っていた。まぁ、もう2度と会える事はないのだろうけど。
 未だに俺を伺うように見るジークに視線を向ける。

「…いちいち言うのもなんか面倒臭えし」
「なっ」

 ボソリと呟いた言葉はしっかり届いていたらしい。目を見開いたジークがユイスに「今から3日は絶対に安静ですよ」と言われるまま横になっていた俺の肩を勢いよく掴む。

「いいか!これからはちゃんと言うのだぞ!面倒臭いなんて理由は許さん…!」

 怒りに震えるジークの姿が、出会った頃を思い出して思わず噴き出してしまった。こいつの怒りの理由がいちいちお人よし過ぎて、そんなんで魔王やってていいのかと思う。
 そんな俺に少し拗ねたのか恥ずかしそうに頬を染めるのを横目に見ながら俺は笑みを作った。

「…じゃあセックスは週に2日でよろしく」
「ぐっ」

 俺の言葉にジークは一瞬声を詰らせ、俯いたかと思えば情けない表情で俺を伺い見る。

「…6日は駄目か?」
「週3」
「せめて5日!」
「………週に4日。2回まで。4回以上強要した場合は一日減ると思え」
「ぐぐっ」
「あー、腰が痛い」
「わ、分かった!」

 眉をへの字に曲げてそう告げたジークに笑みを返す。それに欲情したのか唸りながらも震える身体を拳を握って耐えていた。
 いつも思うけどお前ってよく俺なんかでそんなに発情出来るな。
 ある程度の容姿を自覚しているとはいえ、それ以上の評価をしているジークの中身を一度知ってみたいと思いつつ見つめているとジークが真剣な表情で俺を真っ直ぐ捉えた。

「ユーリ、その…私達魔族は人間と似ている所があるとはいえ違いも大きい為加減を知らぬ。だから、何か不都合があるならすぐに教えてくれ。私はお前を大切にしたいのだ」

 そう言って俺の手を取り握るジークに少しときめいたとかは…あれだ、不可抗力だ。
 よく考えれば他人から頼られる事は多々あってもジークのように頼って欲しいだとか、甘えて欲しいだとか言われたのは初めてだったりするので自分の中に巡る新鮮な気持ちを胸を握り締めて目を閉じた。
 そう言えば最近面倒臭い、と呟くことも少なくなったなぁ。けど変えられてゆく自分も悪くない。
 俺はジークの手を握り締めながら「暫く繋いでろ」と甘えてみた。
 そしてそのまま寝てしまった俺に発情したジークが悶々としていた事実は知らない。

 ちなみにピグモとアラモはどうやら日中はユイスの補佐に付くことになったようだ。おい待て。俺のもふもふタイムをどうする気だ。
 そう聞けばユイスに冷めた視線を向けられたのでロジを呼んでユイスにけしかけてやった。
 ふと親衛隊長の最後の言葉を思い出しながら俺は会いたいなぁ、と心の中で呟く。
 いや、実際会ったら面倒臭くなるに決まってるから会わなくていいんだけどな。うん、面倒臭い。本当面倒臭い。



end.



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(C)siwasu 2012.03.21


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