ピグモとアラモ3



 疲れきった俺の様子にようやく気付いた一人の子供は、顔を覗きこんで首を傾げた。

「ご主人様、僕達のこと、分からない?」

 その言葉に吊られるように、ジークといがみ合っていたもう一人も顔を覗きこんでくる。
 見た目はファンタジーらしく青い髪とピンクの髪。代わって目はお互いの髪色を交換したような色をしている。
 似ているような風貌をしているが青い方は若干目が釣り上がっていて大人びた顔をしているし、ピンクい方は逆に大きな目の可愛い系だ。うん、両方見たことない。

「この色見ろよっ、この色!ご主人様毎日見てるだろ!?」
「髪色?」

 焦れたようにピンクい方が自身の長い髪を掴み目の前に持ってくる。
 ボリュームのあるそれを触ってみた。うむ、なかなかいいもふもふだ。
 髪といえば、生徒会にいた頃俺の親衛隊が髪を弄ってはふわふわした触感を作っていたなぁ…。
 あれもなかなかの触り心地だったと回想していると、ピンクい方が拗ねたように頬を膨らませた。

「あぁ、悪い。…もしかしてピグモとアラモか?」

 間違ってたら謝ろうと心中で思いつつ聞けば、どうやら当たりだったようだ。
 嬉しそうに顔を綻ばせた二匹…じゃなかった、二人は俺の体に飛び掛かってくる。
 こら、今お前等大きさ違うんだから少しは遠慮しろ。

「でも何でまたそんな姿に…」
「ご主人様が僕達が喋れたら…って言うから」
「人の形作ってみたんだぞ!」
「いや、ピグモお前はあんまり作れてねーじゃねーか…」

 よく見ればピグモの方は姿形は人間のそれに近いが、四肢が元の姿をそのまま大きくしたような形の為ちょっと怖い。巨大モグラの手足を見ているようだ。
 手が前に伸びてきて俺は思わず腰を引く。

「うっ…」
「…ご主人様、これ、いやか?」
「いやっつーか、いや、なんか妙にリアルなのがちょっと…」

 口ごもると、アラモが呆れたように「兄さんは適当過ぎなんだよ、そういう所」と溜め息を吐いた。
 ピグモもそれに対して「そうか?」と特に気にした様子はないようだ。
 俺は少しの罪悪感が芽生えつつピグモの頭を撫でると、嬉しそうに微笑んだ。やっぱり人の姿でも可愛いなこいつ。

「元の姿じゃ喋れねーの?」
「僕達は地と森の種族だから他の種族に比べて魔力が低いんだ」
「喋るって意外に難しいんだぞ!」
「へー」

 この世界でのまた新たな発見をしつつ、俺は撫で続けていたピグモの髪を乱暴に掻き混ぜる。

「つかピグモ、お前弟の癖に口悪いぞ」
「それ、前々から言いたかったんだけど…」

 言いながら俺の手を掴み反撃だと言わんばかりに手を齧るピグモを見ていると、アラモが言い辛そうにおずおずと手を上げた。
 同時にピグモも顔を上げてふんぞり返るように腰に手を当てる。

「俺様がこいつの兄ちゃんだ!」
「僕が、弟なの」
「…大変だな、お前も」

 思わず哀れみの目を向けてしまうが俺は悪くない。
 アラモも同時に苦笑しながら頷いた。

「でもこうしてご主人様と話してみたかったから嬉しいよ」
「ご主人様、元の姿の方が好きそうだったしな!」

 そう言いながら嬉しそうな表情を見せる二人に思わず笑みが漏れる。なんだ、畜生。可愛いじゃないか。
 俺は二人のもふもふの頭を撫でながら、そう言えばと、口を開いた。

「そのご主人様ってのやめろよ」
「なんでだ?」
「だって、僕達ご主人様の下僕でしょ?」
「…下僕にしたつもりはないんだが」

 二人の表情がと途端に暗くなる。

「いや、そうじゃなくて。ペット…?なのもこうなるとまた違う気が…」

 俺は悩むように顎に右手を添えた。
 確かにペットのつもりだったが人の姿になれるなら話は別だ。
 流石にこの二人を相手にペットと言うのも憚られる。と、なると…。

「…弟、…か?」
「兄様?」
「お兄ちゃん?」

 は、精神衛生上よくないことが分かった。お前等二人してこっちを見んな、俺が開いてはいけない扉を開いたらどうしてくれる。

「…ユーリでいい」
「「ユーリ?」」
「そ」
「分かったユーリ!」
「でも呼び捨てなんて…」

 元気に頷くピグモと違いアラモは遠慮がちに視線を落とす。生真面目な弟と脳天気な兄、か。
 兄弟の割に随分真逆な性格をしているな、と思いながら俺はアラモの頭に手を置いた。

「俺がいいって言ってんだからいいんだよ」
「うん、…ユーリ」

 はにかむアラモの頭を優しく撫でる。
 もふもふ状態のこいつ等も可愛いが今の姿も可愛いじゃないか。
 これから話し相手が増える喜びに俺は二人の頭を撫でつつ笑みを漏らした。



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(C)siwasu 2012.03.21


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