魔王様+竜=主従3



 渋々と聞かれたことに答えていき、疲れに疲れた夜更け。
 こんなに話すのは何年ぶりだ。高校に上がった時入学式で生徒総代で挨拶して以来か。いや、あれもただ読むだけだったから考えながら長々と話をするのは本当に久方ぶりだ。

「あ、あの奥様…」
「あ?」
「ひっ」

 呼ばれた声に振り向けば、いつも風呂で身体を洗ってくれるメイドさんが腰を引きながら立っていた。昼間のことを思い出してつい機嫌が下がっていた俺は、思っていた以上に低い声を出していたようだ。
 俺は自分が何かしてしまったのだろうかと顔を青ざめているメイドさんに謝りながら、風呂の準備をすべく腰布を取りベッドに放る。
 いつの間にかメイドさん達が「奥様」と呼び慣れていることにむず痒い気持ちが湧くが、いつか気にならなくなるだろう。

「あ、あの、奥様。湯浴みなのですが…」
「?」

 俺がいつものように一緒に入るモグラ兄弟(ちなみに青い方がお兄ちゃんだ。勝手に決めた)を抱き抱え先に風呂場に向かおうとした時だった。
 いつも後ろをついてくるメイドさんが顔を赤く…かと思えば青くする。

「奥様、申し訳ありませんが今日は…」
「ユーリっ!今日の湯浴みは私と共に…!…って何故嫌な顔をする」
「面倒臭いから」

 突然現れたジークはその言葉にショックを受けたのか眉を潜めて泣きそうな表情を見せるが、無視をする。全てに付き合ってたら俺の身がもたねーよ。

「…と、言う訳でして」

 申し訳なさそうに頭を下げるメイドさんに俺は渋々了承の意を伝えると、メイドさんはジークにも同じように頭を下げて退出してしまった。
 残ったのは俺の腕の中にいるモグラ兄弟と泣きそうになりながらも懸命に堪えるジーク。…お前もちょっとは成長したのか。

「…流石に風呂場は固いから嫌だからな」
「わ、分かっておる!」

 意味を理解してくれたのか、俺の言葉に顔を赤くさせながらもジークは大きく頷いた。その返事に満足して、俺はまだ準備が出来てないジークを放って先に風呂場へ向かう。
 脱衣所で服を脱いでいると、暫くして「し、失礼する」とモジモジした声と動きのジークが入ってきた。…威勢良く誘ってきたお前はどこにいった。
 特に気にしないつもりだったが、無言と共に刺さる不躾な視線に俺は堪らず振り返る。

「…その美しさ…本当に異界の者なのだな」
「変わんねーだろ。…先入るからな」

 俺の身体は残念ながら特に鍛えてもいないから平凡並だ。
 そんな身体をマジマジと惚けた顔で凝視するジークに呆れながら、服を全て脱ぎ捨てた俺は(つっても布一枚だけど)足元で喧嘩を始めたピグモとアラモを引っつかみ風呂の方へ向かう。
 そういえば今日はメイドさんがいないんだったと仕方なく自分で身体を洗い、風呂での楽しみとなっているピグモ達の身体も洗い終え湯に浸かっていると、ようやくジークが先程と同じようにモジモジしながら入ってきた。お前は乙女か。

「うわー…」

 いつもは服で隠れている為たまにしか視界に入らない羽と尻尾に、そういえばこいつ魔王なんだったと改めて認識させられた。

「その羽とか尻尾って最初会った時かなりデカかったよな?大きさ変えれんのか?」
「うむ、まぁ…」

 就寝時に寝返りが打てぬのは困るからな、と大きさを変えて見せてくれるジークに俺は感嘆の息が漏れる。実際こうやって顕わになったジークの身体を見れば成る程、魔王ってのも伊達じゃない。
 俺より逞しい筋肉と逸物には少しムカつくが。いや、ちょっと待て。よく考えたらこのデカいのが俺ん中入るのか?…入るのか?
 湯舟に浸かっている筈の身体が何故か一瞬寒気を感じた。

「あ、あまり見るでない、照れるであろう」

 こいつセックスも下手そうだよなー、俺ケツ切れねーかなー、などと考えながら身体を洗っているジークを上から下までじっくり見ていると、不意に恥ずかしいそうな声が上がる。ちょっと待て。

「俺のは散々見といてそれ言うか?」
「ユーリは美しいから良いのだ」

 何だそれは。
 鼻を鳴らして得意げになるジークを呆れつつ、その手が背中に回ろうとした時に俺はあ、と思い付いてストップをかける。

「…何だ?」
「背中洗ってやるよ」
「なっ、なっ!」
「え、じゃあやらね「た、頼むっ!!」…さっさと背中こっち向けろ」

 顔を茹蛸みたいに真っ赤にさせたジークが、俺の言葉に慌てて背を湯舟の方に向けた。
 タオルを受け取ると広い背中に手をかける。あー、俺もこんな筋肉が欲しかった。

「もうちょっと力入れた方がいいか?」
「ん…頼む」

 俺は大人しくジッとしているジークの背中の汚れを落としながら、ふと悪戯心が湧いて羽の根本に指を這わせてみた。
 ら、ジークの身体が大きく跳ねた。



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(C)siwasu 2012.03.21


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