魔王様+竜=主従2



 そのまま楽しそうに歴史を語るユイスを尻目に、俺は何とか今日の分の字の練習を終わらせた。やれば出来るもんだ。

「そして初代魔王様は領土の拡大を…」
「あぁ、ちょっと待て」
「…貴方はどれだけ人の話の腰を折ったら気が済むんですか」
「いや、そろそろ聞くのに飽きてきたんだよ」
「まだ序盤なんですが」

 半眼でジッと睨むユイスを俺は手で払う仕草をする。
 すると呆れたような溜め息をつきながらまだ半分近く残っていた茶菓子を奪われた。ちょっと待て。

「…ここまでの聞き下手は初めてです」
「でもどーせその何代目か後に西南北に魔王の子供とか置いて統治させて、直系は西の国のここにいるジークなんですーってオチじゃねーの?」
「何故我々しか知らない歴史を人間が知っているのですか!?」
「どんだけテンプレ通りなんだ…」

 まさか当たるとは思わなかった。
 ついでに俺は驚いている隙に、ユイスの手から茶菓子を奪い返す。これは俺のもんだ。

「と、とにかくその為我々は代々魔王様の側近という立場を誇りをもって務めているのです」
「あ、ちなみに東の側近は結構適当に決めてるよ〜アミダクジとか〜」
「?」

 今どこからかロジの声が聞こえた気がしたんだが気のせいか?

「かいちょー、こっちこっち〜」
「…げ」

 呼ばれる声の方にまさかと頭上を見上げるといた。
 宙で首を出しているロジ………いや、会計が。

「ちょっと、ロジ…!貴方何をしてるんですか!そんなもの人間に見つかったら…」
「あ、大丈夫大丈夫〜、話は後でするから〜。それより会長〜」
「なんだ?」
「学園祭の予算案ってどこに置いたー?」
「あぁ、それなら今年度の行事まとめのファイルに挟んだ気がする…ってやっと仕事する気になったのか」
「いや〜流石に生徒会誰も仕事しないのはマズいっしょ〜。今書記も戻ってきてるよ〜」

 久々に見たヘラヘラと笑う緩い金髪の優男に俺は若干の苛立ちを覚えつつ、俺がいなくなったおかげか生徒会役員が戻ってきたことに何となく安堵した。
 なんだ、それなら最初から俺もサボればよかった。

「そっちは上手くやってんのか」
「転入生くんが会長がいないー!って騒いでるぐらいでまぁ何とかやってるよ〜昨日警察来たけど〜」
「おい大丈夫なのかそれ」

 呆れたように会計を見れば、大丈夫と言いながらにへらと笑う。

「会長の両親はどうせどっかで生きてるだろって気にしてないみたいだし、騒ぎにするつもりはないみたいだからすぐに落ち着いたよ〜」
「…だろうな」

 俺は自分以上に面倒臭がりな両親を頭に浮かべて頷いた。だがしかし周囲にそう言いながらもちょっぴり心配するのがまた俺の両親だ。

「俺そっち戻れねーんだよな?」
「残念ながら〜」
「今度親父に手紙書くから渡すことって出来るか?」
「いいよ〜」
「あと俺の部屋から3DSを…」
「いい加減にしてください!!」

 俺は怒鳴り声に驚いて前を見ると、放置してたユイスが凄い剣幕で顔を近付けてきた。近い近い近い、あと顔が変わってきてるぞユイス。

「やばっ。会長手紙と3DSはまた今度ね〜」
「あ、おいせめて俺の引き出しのポッキーだけでも…」
「ユーリっ!!!これはどういうことですか!?」
「…面倒臭ぇ」

 いつか説明する時が来るだろうとは思っていたが…会計め。今度お前の毛を刈って枕作ってやる。
 動揺しているのか目をキョロキョロと回しながら怒鳴るユイスは、そのまま後方のジークに向き直った。そういえばさっきから大人しいな、あいつ。

「ジークハルド様も!今の見た…で…しょ…う…?」
「………む、……はっ!…寝ておらん!寝ておらんぞ!真面目にやっている!!」
「「…………」」

 後頭部しか見えないがユイスも俺と同じ表情をしているだろう。
 机に頬杖をついて意識を飛ばしていたらしいジークは、慌てたように起きて書面と睨めっこをしていた。

「はぁ。…ジークハルド様、今日の執務はもういいですからこちらにおかけください」
「…何かあったのか?」

 ユイスが仕事を中断させることは珍しいのだろう。目を丸くさせるジークと視線が絡む。

「今からユーリが、…色々と説明してくれるようなので」

 そう言ってジトリと半眼で睨むユイスを視界の端に捉えながら、俺は天井を見上げた。ロジのいた空間はただの壁紙に変わっている。
 て、いうかあの引き出しどこにでも出れるのか。暫くタイムマシン(この場合トリップマシンか?)とどこでもドアがくっついた便利な道具に思考を逃避していたが、残念ながらすぐにユイスに戻されてしまった。
 あぁ…面倒臭ぇ。



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(C)siwasu 2012.03.21


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