魔王様+竜=主従1



 何故か生徒会長から魔王の嫁になってしまった俺は、結婚の儀式も終わらせ後は禁欲期間が解けるまでをカウントダウンするのみとなった。
 どうやら儀式から一週間禁欲を続けることも試練の一つらしい。
 運が良いのか悪いのか、こちらの世界の言葉を話せるだけでなく読み書きも出来ることを知った俺は、早速ヨメについて調べてみた…が、3秒で諦めた。何だこの膨大な量の資料は。
 必要になれば誰かから教えて貰えばいいや、と匙を投げて書架の上で昼寝してたらすっかり夜も更けていて、侍女達がいなくなった俺を必死で探していたことは流石に反省する。
 ところでカウントダウンとか格好つけて言ってみたが(一度言ってみたかったんだ)実の所、禁欲は今日までだったりする。

「何ですかこのペースは!!」

 両手に紙束を持ちながら執務室でジークに喚き散らすユイスを見ながら、俺はなるべく目立たないように大人しくソファーで丸くなった。
 まだユイスを知って短いが、ここで下手な動きを見せれば俺にも火の粉が及ぶと確信したからだ。

「ユーリも何サボってるんですか!ちゃんと練習なさい!!」
「…」

 結局怒られた。

「面倒くせー…」

 言いながら渋々体を起こし、ローテーブルに広げられたこの世界で子供向けに販売されているらしい字の練習帳を開く。
 俺は小学生か。

「ユーリ、その芋虫のような字も私は可愛いと思うぞ?」
「だよなぁ?」
「ジークハルド様はユーリを甘やかさないでちゃんと自分の仕事に就いてください!!」
「む、むぅ…」

 くそ、味方が消えてしまった。
 ユイスに怒られたジークは罰が悪そうに書類を手に取った。ユイスって側近というよりは母親の方が合っている気がする。

「ユイスって何でこんな泣き虫魔王の側近なんかやってんだ?」

 俺はふと気になって聞いてみた。
 矜持は高そうだし、見た所自分より格下っぽい魔王相手にガミガミ怒る位ならその地位を乗っ取りそうなものなのに。

「なんかとは何ですか、なんかとは!」
「だって、これだろ?」

 振り返り怒りを見せるユイスに、俺は一生懸命書類に向かい合ってるジークを半眼で指す。
 見た目は魔王っぽいけど、中身どう見ても雑魚キャラじゃん。

「…ユーリ、あなたはヨメとして歴代魔王様の偉大なる功績を知らねばならぬようですね」

 そんな俺に溜め息を吐いたユイスは、こちらに近付くと正面のソファーに腰を下ろした。何か嫌な予感がするぞ。
 俺はユイスが口を開く前に手を前に出しストップをかけた。

「ちょっと待て。話が長くなるならせめて回想はユイスがやってくれ。あと紅茶とお菓子」
「あなたって人は…」

 俺の要求に、こめかみに青筋を立てながら小刻みに体を震わせるユイス。
 いや、だって面倒臭いだろ。それに聞いている間口寂しいの嫌だし。

「馬鹿なことを言ってる暇があるなら手を早く動かしてその芋虫みたいな字をせめて虹色ナナフシぐらいまでにしなさい!」
「ちっ」

 どうやらこの体制のまま話を聞かなければならないようだ。
 俺は仕方なく自分の字をナナフシっぽくなるように書いてみた。…虹色ってちょっと見てみたいな。

「そもそも魔王様は元は唯一の存在だったのです」
「歴史の話から始まんのか?」
「…少し黙って聞きなさい」

 そろそろ本気で怒られそうなので、大人しく耳を傾けながら字の勉強に励むことにする。
 ようやく大人しく勉強を始めた俺に満足したのか、ユイスは紅茶を用意してくれた。ついでに茶菓子は、と聞きそうになったが何とか喉元で押さえ込む。

「初代の魔王様は、私達のような人間から虐げられ隔てを置かれる存在の為に、人間の領土を侵略し楽園のような地を作って下さいました」

 おいおい、早速物騒な話だな。一応ここにいる俺も人間なんだが。
 と、思いながらユイスをチラ見したら睨んでいたのですぐに当てつけだと分かった。
 …俺こないだこっちの世界に来たばっかなんだけど。

「特に地と森の種族は比較的穏やかなせいか他よりも力が弱く人間からの迫害と圧制が酷かった為、救われた中には魔王様を神王と同格として敬う者もいた程です。そして初代魔王様への恩義として、地と森の種族の中でも最高位の我々ドラゴンが魔王様の従者として未来永劫仕えるようになったのですよ…ってこら、ユーリ。何故船を漕いでいるのですか」
「話長ぇのダメなんだよ…。俺理事長の話聞いてる時はすぐ寝ちまうし」
「リジチョーとは誰ですか?」
「あー…なんか長みたいなもんだよ」

 欠伸しながら適当に返事すれば、ユイスは呆れた目を向けながら「今日中にその一冊は終わらせなさい、約束ですよ」と言いながら茶菓子を用意してくれた。
 現金ながら俺のスピードが上がったことは言うまでもない。



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(C)siwasu 2012.03.21


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